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宮古陸自ヘリ事故、搭乗者氏名の公表で悩み 公益性と尊厳、配慮のはざまで<取材ノート 新聞週間2023>1


宮古陸自ヘリ事故、搭乗者氏名の公表で悩み 公益性と尊厳、配慮のはざまで<取材ノート 新聞週間2023>1 海底から甲板に引き揚げられる機体の一部=5月2日午前、宮古島市沖(又吉康秀撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊


 第76回新聞週間が15日、始まった。記者は取材現場でさまざまな状況に直面しながら、どんな思いで記事を書いているのか。報道の在り方を日々模索しながら発信する記者の思いを紹介する。


 4月に宮古島市沖で発生した陸上自衛隊UH60JA多用途ヘリの事故で、ヘリの搭乗者の氏名公表を巡り、取材に関わった記者やデスクは頭を悩ませた。

 当初、陸自が公表したのは搭乗者10人のうち、坂本雄一第8師団長(当時)のみだった。琉球新報は伊與田雅一宮古警備隊長(当時)も乗っていたという情報をつかんだ。地元の駐屯地トップの搭乗は、県民の関心も高いと考えた。同時に、生存を信じて待つ隊員家族の苦悩も漏れ伝わってきた。すぐに氏名を掲載すべきか、陸自が家族の理解を得た上で公表するのを待つべきか、デスクと記者で議論した。

 ヘリ事故は自衛隊の公務中の出来事であり、基本的に詳細を報じなければならない。搭乗者の氏名も公益性の高い情報ではないかとも考えた。だが、議論の末、すぐには氏名を掲載しないことにした。公務員である自衛隊幹部であっても本人の尊厳や家族に配慮する必要性があると判断したからだ。陸自が公表に向けて遺族と調整を進めていたことも大きい。

 事故の原因や県民の安全に直接関わる情報であれば当然、公益性が優先される。個人の特定を避けながらヘリ事故の問題点や捜索の状況を伝えることはできると考えた。

 琉球新報は地元の部隊関係者が含まれていたという情報を伝えるため「宮古警備隊の幹部1人」と記事で表現した。陸自の公表後は顔写真付きで氏名を報じた。

 一方、別の理由で掲載しなかった情報もある。一部の報道機関は事故と関連付けて報じた、宮古島市沿岸部で黒煙が上がる写真だ。本紙も同じ写真を入手していたが、事故との関連を調べていく過程で掲載を控えた。自衛隊や海保への取材で事故との関連を決定付ける有力な情報は出てこなかったからだ。

 現場で取材に当たる記者らには「入手できた情報はぜひ出したい」という思いもあった。だが、事故と関連する可能性が低い写真を事故と結び付けて報じた場合、琉球新報の信頼性を揺るがすと判断した。

 記者が把握した情報は可能な限り読者に早く、正確に伝えるのが基本だ。掲載を控える状況はかなり例外的な場合に限られるべきだと考えている。今後も読者の利益を大前提に、いつ何をどう報道すべきか考えながら紙面作りを続けたい。 

この記事を書いたのは
明 真南斗 東京報道部

この記事を書いたのは
友寄 開 宮古支局