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頭まで津波、九死に一生 家族下敷き 救助諦めも


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 津波に頭までのまれ、九死に一生を得た。能登半島地震で沿岸部に甚大な被害が出た石川県珠洲(すず)市の市町知預(いちまちともよ)さん(66)。「甘く見ては絶対にだめ」。足が悪いからと残った近所の男性はまだ見つかっていない。県内では2022年6月や23年5月に続く激しい地震。市内の男性は生き埋めになった家族の救助がかなわず「これが現実」と諦めを口にした。
 市町さんは1日夕、大津波警報を聞き、はじかれるように自宅を出た。すでに水が流れ込んでおり、波が引いてから避難を始めたが、気が付けば音もせずに再び水が押し寄せ、膝まで水が増していた。両脚には生々しい切り傷が残る。
 すぐに頭までのみ込まれた。目の前には細い木々が流れるのが見えた。もがきながら「もう死ぬんだ」と感じた後、どうやって避難所にたどり着いたか、夫とどこで再会したかは記憶が残っていない。髪や耳からはたくさんの砂が出てきた。
 行方が分からない近所の男性は「足が悪いから、ここで待機する」とガスボンベの上に座っていたのを見たのが最後。大きな地震がたびたび起きてきたが、「津波は初めてで、来るとは思わなかった」と振り返った。
 同市の坂下誠一さん(71)は帰省していた息子家族と自宅で過ごしていた際、強い揺れに襲われた。「一歩間違えば死んでいた」。自身はかすり傷で済んだが、母親と息子の妻は5日も家の下敷きになったままの状態。「息子の妻だけでも」と思い、消防に約50回求めた救助はいまだに来ていない。「一つずつしかできない。現実やから仕方ないね」。避難所には入らず、車中泊の生活を送るつもりだ。「少しでも近くにいてやりたい」と静かに話した。
 多数の救助要請に対応せざるを得ない行政関係者には葛藤がにじんでいた。