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握り返す手、ともった希望 雪と厳寒 諦めない 90代女性救出から勇気 能登半島地震


握り返す手、ともった希望 雪と厳寒 諦めない 90代女性救出から勇気 能登半島地震 倒壊した住宅から90代の女性を救出する医師ら=6日夜、石川県珠洲市(ピースウィンズ・ジャパン提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 被災から約124時間、握り返した手にはぬくもりがあった。能登半島地震は8日で発生から1週間。「勇気づけられた」。石川県珠洲市で90代女性を救助した関係者は今後も諦めない決意を新たに。7日は雪と厳しい寒さの中で懸命の捜索が続いた。 (1面に関連)
 救助チームの一員が、がれきの下の女性の手を握った。隙間から聞こえるうめき声。「頑張って!」。女性がかすかな力で握り返してきた―。石川県の能登半島地震で倒壊した同県珠洲市内の住宅から6日夜、90代女性が救出された。最大震度7を観測した地震発生から約124時間後。生存者がいることに、現場で活動した医師ですら「半信半疑だった」。活動に当たった消防隊員らが一夜明けた7日、市内で取材に応じ、緊迫の状況を振り返った。
 住宅は珠洲市正院町川尻にある2階建て。女性は、息子(71)や帰省していた孫らと室内にいた時に強い揺れに襲われ、倒壊した家屋の下敷きになった。
 当初から救出活動に当たっていた警察からの応援要請を受け、6日午後4時35分に出動した緊急消防援助隊京都府大隊の粂孝宜救助小隊長によると「1階と2階の隙間はほとんどなかった」。内部には家財道具や建材が散乱し、大型機材は使用できなかった。
 2階から進入した隊員らが、1階で左足を梁(はり)と畳に挟まれて動けなくなっていた女性を確認。隊員らは「頑張ってください!」と声をかけ続けた。
 一緒に活動に当たった認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の医師稲葉基高さんは、救助要請を受けた際「90代の方が生きているとは思えない」との思いがよぎったという。
 しかし女性に「手を握ってください」と呼びかけると、かすかに手を握り返してきた。「助けられるかもしれない」。長時間圧迫されて壊死(えし)した部位の毒素が救出後に体内に回る「クラッシュ症候群」を防ぐため、女性の首と腕に2500ミリリットルの点滴をした。
 救出されたのは午後8時19分。「頑張った、頑張った」。救急搬送される女性に関係者から次々と声がかかる。倒壊した住宅から自力で脱出し、活動を見守った女性の息子は救出直後、取材に「ありがたいです。本当にそれだけです」。援助隊を指揮した八田正人大隊長は活動翌日の7日、「よくぞ救出してくれた。勇気づけられる事案だった」とねぎらった。
 生存率が大幅に下がるとされる発生72時間を超えていたが、女性は搬送時、弱々しいながらも自身の名前を隊員らに伝えた。稲葉さんは「がれきの下で雨水を口にしていたのかもしれない。救助と医療が連携しなければ助けられなかった。諦めずに活動したい」と語った。
 活動には警視庁や広島、福岡両県警、大津市の消防も参加した。