晴れ着姿の思い出を切り取るはずだった。能登半島地震で大きな被害が出た石川県珠洲(すず)市では「二十歳のつどい」が延期され、坂健生さん(66)の写真スタジオを訪れる若者はいなかった。撮影機材は地震で散乱したが、愛用のカメラは無事。坂さんは「復興の様子が分かるように」と、市内を巡って状況を記録している。
能登半島では近年、地震が頻発しており、昨年5月の最大震度6強の地震も経験したが、元日にスタジオ2階で遭遇したのは「終わった」と思うほどの揺れだった。長く続き、ガラス窓越しに、近くの寺が土煙を上げながら崩壊する様子が見えた。
収まった瞬間、取りに向かったのはカメラと、卒業アルバム用の地元中学・高校生の写真データが入ったパソコン。抱えて車に乗り込み、津波襲来に備えて急ぎ離れた。
多くの家が倒れていた。近所の住民は、連絡が取れない友人や親戚を心配していた。「他の地域がどうなっているのかを見て、伝えんと」。そう思い、2日から車で市内を回ることにした。
損傷した橋、津波で壁にめり込んだ車、倒壊家屋に手向けられた花。悲惨な状況にショックを受けながらも、夢中で写真に収めた。救助チームの姿、営業を再開した店の様子も記録した。
地震発生から3日間は何も食べられず、知人と「困ったことがあったら言えよ」「頑張ろうな」と声をかけ合った。
地震がなければ7日は珠洲市で二十歳のつどいが開かれ、スタジオに多くの晴れ着姿の若者が訪れるはずだった。式典会場でも、祝福される成人を撮影する予定だった。
地震発生から1週間。当初の混乱は落ち着き、この先を考えるようにもなった。電気が復旧したスタジオで、卒業アルバムの編集作業も再開している。「まだ終わってない、負けてられんよ」
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晴れ着姿撮れず、街記録 珠洲のカメラマン・坂さん
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琉球新報朝刊