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心えぐった無理解 DV被害男性 支援進まず 「加害者」相談先で怒鳴られ


心えぐった無理解 DV被害男性 支援進まず 「加害者」相談先で怒鳴られ DV被害に遭い、PTSDに悩む島村和宏さん=12日、東京都北区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 おとなしかった妻が一変したのは結婚後まもなくだった。夜中に何時間も罵倒され、暴力を振るわれる日々。「死んでもいい」とまで思い詰めたが、周囲には理解されず、支援を求めた行政には相談すら断られた。今も心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩む東京都北区の島村和宏さん(48)は「無理解が心をえぐった。男性もドメスティックバイオレンス(DV)被害に遭うと知ってほしい」と訴える。 (3面に関連)
 妻とはカフェ店員をしていた職場で知り合った。妻の離職後に同僚に誘われたライブで再会。「おとなしくてしっかりした人だ」と思い、2019年2月に交際を始めた。同年5月から同居し、8月には結婚した。
 そのころから、妻は人が変わったように荒れ始めた。「しゃべる速さを変えろ」などと島村さんを罵倒した。「言うことを聞けばおさまる」という島村さんの思いとは裏腹に、妻のDVはエスカレートした。
 夜中に起こされ「とっとと死ね」「生きる価値がない」と長い時には4時間ののしられた。そのまま朝仕事に行く生活で、常に妻の顔色をうかがい恐怖心から不眠症になった。暴行も日常的に受け、スピーカーで頭を殴られたり、壁に向けて包丁を投げられたりした。
 20年5月に初めて警察に通報。妻の暴行による傷痕を見せたが、夫婦げんかということにされ、被害届は出せなかった。
 友人に相談しても、ただの暴力と捉えられ「ガードの練習をすれば」「大丈夫、忘れるよ」と軽視され、そのたびに傷ついた心に塩を塗られた。
 行政などの相談窓口では、男性というだけで女性相談員から加害者と決めつけられて怒鳴られたり、「そもそも男性は対応できない」と断られたりした。男性相談員が応じる電話窓口もあったが、月に2回しか設けられておらず不慣れだった上、男性向けの支援策が乏しく具体的な支援は提示してもらえなかった。
 ある窓口で男性相談員に「よく生きていましたね」と言われ、せきを切ったように泣いた。DV被害のつらさを、ようやく分かってくれる人がいた。それほどまでに男性被害者への理解と支援は足りなかった。
 「DVは一方的な支配で、精神的ダメージがとても大きい」と島村さん。離婚して3年たった今でも睡眠剤は手放せない。元妻や相談先に怒鳴られたトラウマから、人に怒鳴られると体がこわばったり、記憶が飛んだりする。
 島村さんは、民間も含め20カ所近く相談したが具体的な支援がなく「シェルターに入りたくても入れなかった」と振り返る。実名で取材に応じたのは「男性もDV被害に遭うという認識を社会全体で持ってほしい」との思いから。窓口を拡充するなど女性同様の支援が必要だと訴えた。