有料

「浮島丸」名簿、国保有 朝鮮人労働者ら乗船、沈没


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 帰郷する朝鮮人労働者を乗せた旧日本海軍輸送船「浮島丸」が1945年8月の終戦直後、京都府の舞鶴港で爆発、沈没し500人以上が死亡した事件を巡り、政府が乗船者の大半が記された名簿を保有していたことが23日、分かった。ジャーナリスト布施祐仁氏の情報公開請求に厚生労働省が開示した。遺族らによる国家賠償請求訴訟で、政府は乗船者名簿を「乗船時に作成し船に備えたもの」と定義し沈没で喪失したと説明。名簿に類する文書の存在も明らかにしてこなかった。
 同志社大の太田修教授(朝鮮近現代史)は、当時の状況が分かる貴重な名簿とし、戦時動員された朝鮮人労働者に関する日韓両政府の取り決めに基づき、韓国政府に渡すべきだと指摘する。
 厚労省社会・援護局調査資料室は「開示したのは事故後の調査を経て作成された名簿だ。乗船時に作成し船に備えた乗船者名簿とは作成時期が違い、別物」と説明した。
 浮島丸事件について政府は、米軍の機雷に触れた事故と発表。乗船者は乗客の朝鮮人3735人、乗員255人、死者は乗客524人、乗員25人とした。死没者名簿は訴訟でも開示されたが、乗船者名簿がないまま死者をどう特定したのか、明確な説明はなかった。
 開示された名簿は3種類で、海軍や企業がそれぞれ作成したものとみられる。青森県の大湊海軍施設部「乗船名簿」は表紙に「8月24日乗船、総員2429名」と記載がある。職種、氏名、生年月日、本籍地の欄内は個人情報保護を理由にマスキングされていた。
 遺族らの訴訟では京都地裁が2001年、安全配慮義務違反を認めて国に賠償を命じたが、二審で逆転敗訴。04年、最高裁で確定している。