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【識者】誰のための平和宣言か、考える時期 佐道明広氏(中京大教授) 沖縄「慰霊の日」


【識者】誰のための平和宣言か、考える時期 佐道明広氏(中京大教授) 沖縄「慰霊の日」
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 佐道 明広氏(中京大教授)

 「鉄の暴風」による悲劇から、現在も続く基地負担の問題に触れ、人命の尊さを説く。同時に国際情勢が悪化する中でも、沖縄は交流と信頼による平和を築く努力を誓う。県知事として、しまくとぅばも交えた呼びかけは、慰霊の日の平和宣言で繰り返し訴える内容として評価できる。ただ、その内容は少しパターン化している。これは、沖縄の訴えに政府が聞く耳を持たない状況を表しているといえる。

 岸田文雄首相の挨拶は、沖縄振興の成果を語りながら、いつものように基地負担軽減について実現されない約束を繰り返すもので、知事の宣言とは全くかみ合っていない。また、木原稔防衛相は慰霊の日を前にした記者会見で「抑止力・対処力を高める」ことの重要性を語った。しかし、国民の安全は、抑止力・対処力を高めることのみで維持できるものではない。

 宣言にもあるように、南西諸島防衛力強化という方針で自衛隊施設が新たに建設され、民間の空港や港湾を使用した日米共同訓練が繰り返し実施されている。県民が目の当たりにしているのは、抑止力強化のために沖縄が再び戦場になるかもしれない光景だ。安易に語られる「台湾有事」は、住民の戦争への警戒心を増大させている。その状況下での慰霊の日について、玉城デニー知事は、「御霊を慰めることになっているのか」と疑問視した。

 日米合同訓練は、全国に拡大し、沖縄と同じような危機感を持つ地域も増えてきている。平和への思いを訴えるメッセージは大事だが、さらにストレートな表現で政府に沖縄の現状を訴える必要があったのではないか。そもそも「平和宣言」とは、誰に、何を、どのように訴えるものか、改めて考える時期に来ているのではないか。

 (防衛政策史)