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【講演要旨】玉城デニー知事の国連NGOシンポジウムでの講演


【講演要旨】玉城デニー知事の国連NGOシンポジウムでの講演 国連人権理事会のサイドイベントで、沖縄戦や戦後の米統治下の歴史などを説明する玉城デニー知事=19日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部
この記事を書いた人 Avatar photo 與那嶺 松一郎

 玉城デニー知事が19日午前11時(日本時間同日午後6時)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた、国連NGO市民外交センター主催のサイドイベントのシンポジウムで講演した内容(要旨)は次の通り。

   ◇   ◇

 はいさいぐすーよー、ちゅうがなびら。沖縄県知事の玉城デニーです。米軍基地による人権、基地、環境問題について発言したい。沖縄に米軍基地が集中している背景や現状。基地から派生する事件事故、環境問題が県民の安全安心な生活環境を脅かしているにもかかわらず、日米地位協定により国内法が適用されない問題があること、特に沖縄県民の8割以上が暮らす本島中南部の市街地にある、世界一危険と日本政府も認めている普天間飛行場の1日も早い危険性の除去が必要なこと、移設先として多くの沖縄県民が反対しているにもかかわらず、日米両政府は辺野古・大浦湾を埋め立てて新たに基地建設を強行しているという状況がある。これらの問題は沖縄だけの問題ではなく、人権や環境、民主主義といった普遍的な問題だ。

 沖縄県は日本列島の一番南西の端っこに位置している。東アジアでみると日本や中国、台湾、東南アジアの中心に位置している。自然環境に恵まれ、沖縄本島北部のやんばると言われる森には希少生物が多数生息し、生物多様性に富んだ自然はまさに人類共通の宝物と呼ぶにふさわしい。

 沖縄は15世紀から19世紀までの約350年間、琉球王国という独立国だった。19世紀中頃、アメリカのペリー艦隊が日本本土に来航する前後に、当時の琉球王国にも寄港している。アメリカとの間で琉米修好条約が結ばれ、フランス、オランダとも同じような内容の条約を結んでいる。地理的な特徴を生かして盛んに交易を行い、独自の文化を育んできた。

 1879年、日本政府の廃藩置県政策に伴い、琉球王国が日本の一つの県となった。1939年から始まった第2次世界大戦においては、沖縄では史上まれにみる熾烈な地上戦が行われ、鉄の暴風と呼ばれるすさまじい爆弾投下と砲撃により、当時の県民の4人に1人が命を奪われ、緑豊かな島々は焦土と化した。

 沖縄に上陸した米軍は住民をまず収容所に強制隔離し、土地を接収し次々と新しい基地を建設していった。52年、サンフランシスコ講和条約により日本は主権を回復したが、沖縄は切り離され、その後27年もの間米軍の施政権下におかれた。

 日本本土では米軍が起こした事件・事故などによる不満が高まったこと、米軍基地拡張への強烈な反対運動が起こったことなどを背景として基地の整理縮小が進んだ。

 日本本土から出ていった米軍基地は、米軍の施政権下にあった沖縄に移っていく。沖縄では国際情勢の変化に伴い新しい基地が必要になると、住民の意思とは関係なく、武装した米軍兵らによる銃剣とブルドーザーと称される、居住地などが強制的に接収され、基地が次々と建設されたことにより、広大な米軍基地が形成されている。このように形成された米軍基地は72年に沖縄が日本に復帰し50年以上経過した現在もその多くが存在し続けている。

 日本の国土面積の約0.6%に過ぎない沖縄県に、全国の米軍専用施設面積の約70・3%が集中するという異常な状況が続いている。県内にある米軍専用施設の面積は1万8483㌶。これはジュネーブ市の面積約1600㌶の約11倍。広大な米軍基地が住民生活と隣り合わせにあることにより、事件事故、騒音、公害などさまざまな悪影響を県民に与えている。

 訓練・演習に伴う航空機事故は後を絶たない。復帰前の59年に米軍ジェット機が小学校に墜落、炎上し、児童11人を含む17人の死者、210人の重軽傷者を出したジェット機事故が発生している。65年、落下傘を付けたトレーラーが落下し、いたいけな少女が下敷きになって亡くなった。

 近年の例では、2004年、宜野湾市の沖縄国際大学に海兵隊のヘリコプターが墜落した。16年、名護市安部沿岸でオスプレイが墜落、17年、宜野湾市の普天間第二小学校にヘリコプターの窓枠が子どもたちの体育の授業中に落下する事故などが発生している。事故の後、この小学校の運動場には子どもたちが避難するシェルターがつくられた。安全で安心して学ぶ環境であるべき学校で、このように子どもたちが危険にさらされることが、はたして許されることか。

 米軍人、軍属等による刑法犯罪は1972年からこれまでに6千件以上発生している。そのうち殺人、強盗、強姦などの凶悪犯は584件発生している。95年、小学生の少女が米兵3人に乱暴される事件が発生し、基地被害と米兵の犯罪に苦しんでいた沖縄県民の怒りが爆発した。2016年にも、米軍属の男性が女性を殺害し、死体を遺棄するという事件が発生し、強い憤りが再燃した。19年、海軍兵が女性を殺害した後自殺する事件が発生し、県民に大きな衝撃と不安を与えた。

 米軍基地は環境の面でも深刻な影響をもたらしている。普天間飛行場や嘉手納飛行場の周辺では常駐機に加え、外来機による昼夜を問わない訓練により、航空機騒音や排気ガスの悪臭に悩まされている。地域住民の生活に甚大な被害を与えている。基地内の航空機燃料などの流出による水域等の汚染がたびたび発生している。度重なる燃料の流出事故、土壌などの自然環境を汚染し県民の生活や健康への影響が懸念されている。

 加えて普天間飛行場や嘉手納飛行場周辺の川やわき水から自然界では分解されない有機フッ素化合物、いわゆるPFASが国の暫定基準値をこえて検出され、地域住民に大きな不安を与えている。これまでの調査結果から普天間、嘉手納両飛行場が汚染源である可能性が高いと考えられ、沖縄県は汚染源を特定するため米軍基地内への立ち入りを求めているが米軍からの許可が下りず、調査すら出来ない不平等な状況が続いている。

 2020年には普天間飛行場からPFASを含む泡消化剤14万リットルあまりが基地の外に流出する事故が発生し、21年には普天間飛行場内に残っていたPFASをふくむ水の処分方法について日米で協議している最中、6万リットルあまりを米軍が一方的に下水道に放出するということも起こった。

 私は今年7月にハワイを訪れ、ハワイにある米海軍の処理施設レッドヒルにおけるジェット燃料流出事故およびPFASの残留物流出、漏出事故について意見交換した。21年の発覚後、ホノルル市の水道局は住民への情報提供を徹底しておこなうとともに、ハワイ州では国を巻き込んで米軍側と折衝した。その結果、事故があった施設については2027年までに撤去、燃料施設の閉鎖をすることが決定したほか、水源の水質についても米軍が公表することになった。同じ米軍施設での環境問題について、米国内と国外では対応の違いがあることは明らかだ。

 このような米軍基地から発生する諸問題と密接に関わるのが在日米軍における施設区域の使用の在り方などを定めた日米地位協定。一度も改正されないまま締結から60年以上が経過し、社会情勢の変化や人権、環境問題などに対する意識の高まりの中で時代にそぐわない。PFASに関する米軍基地内への立ち入りも、基地の管理権は米軍にあり、自治体の基地内への立ち入り権が確保されていない。基地周辺で高濃度のPFASが検出されてもその原因の究明が難しい。

 刑事裁判権についても身柄の移転について運用の改善は図られているものの、アメリカ側の裁量に委ねられているままだ。

 日本政府は一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別な取り決めがない限り接収国の法令は適用されず、そのことは日本に駐留する米軍にも同様であるという立場をとっている。日米地位協定も一部の法令を除き日本の国内法を適用する条例がないことから在日米軍には原則として日本の国内法は適用しないとなっている。

国連人権理事会のサイドイベントで講演し、沖縄の歴史や米軍基地の集中による人権侵害の状況について発信する玉城デニー知事=19日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部

 しかし本当にそうなのか。沖縄県は日本と同様に米軍が駐留しているドイツやイタリアなどの国々の状況について調査をした。その結果ドイツやイタリアなどの国々では航空法などの自国の法律や規定などを米軍にも適用させ、米軍の活動をコントロールしていることが分かった。人権や生活を守るためにも米軍に対する国内法の適用など日米地位協定の抜本的な見直しが必要だ。沖縄県では日米両政府に対し何度も抜本的な見直しを求めてきたが、未だ実現されていない。

 沖縄で最も問題となっている、普天間飛行場の辺野古移設の問題について話したい。県民の8割以上が暮らす沖縄本島中南部にある米海兵隊の普天間飛行場は市街地の中心部に位置し、その周辺には学校や公共施設、住宅などが数多く存在して、航空機事故の危険性や騒音被害など、世界一危険な基地であると言われている。

 これまでに多くの事故を繰り返し、昼夜を問わない航空機の騒音により周辺住民の我慢は限界を超えている。沖縄県は日米両政府に対し普天間飛行場の速やかな運用停止を含む一日も早い危険性の除去、県外、国外移設および普天間飛行場の早期閉鎖、返還を実現するよう求めている。

 日米両政府も危険性を認識し、移設を計画した。しかし、日米両政府が出した計画は辺野古大浦湾の美しい海を埋め立てて新たな基地を建設するというものだった。しかも普天間飛行場にはない係船機能つきの護岸、2本の滑走路など新たな機能が整備される、代替施設ではない新たな基地を建設するものであり、沖縄の過重な基地負担や基地負担の格差を永久化するものでしかない。

 多くの沖縄県民は普天間飛行場の県内移設に反対です。このことは過去三回の県知事選挙で示されている。さらに2019年、民主主義の手続きによって実施された県民投票では県民総数の約7割は埋立に反対を示した。

 しかし日米両政府は「辺野古が唯一の解決策」と県民の思いを顧みることなく新基地建設が強行されている。民主主義の手続きによる意思の表示すらないがしろにされている。

 辺野古新基地建設の予定地である大浦湾は生物多様性の極めて高い海域だ。海域には国指定天然記念物で絶滅危惧種のジュゴンをはじめと262種、5300種以上の生物が確認されている。
このうち約1300種の生物はまだきちんと分類されておらず、その中には新種が含まれている可能性があるとされる。

 日本政府はこの海域をラムサール条約の登録地域の国際基準を満たす潜在候補地として生物多様性の観点から重要性の高い海域の一つとみている。辺野古、大浦湾の自然環境はこれから次の世代に引き継いでいかねばならない、私たちのかけがえのない貴重な財産と考えている。

 辺野古新基地建設予定地の大浦湾の海底には、非常にやわらかいマヨネーズ状の軟弱地盤が広い範囲に分布している。面積では大浦湾の埋め立ての約6割に当たる。もっとも深い場所では水深下90㍍まで存在する。そのため、新基地を建設するには直径2㍍の砂のくいを含む、7万本以上の大きなくいを打ち込む、大規模な地盤改良工事が必要とされている。工事に伴い、地盤が最大14㍍盛り上がるとされ、周辺環境、海域に甚大な被害が及ぶことは容易に想像できる。建設予定地の直下とその近くには二つの断層が存在している。地質学者はこれらの断層が地震発生リスクが高い、活断層であると指摘している。予定地には緩い地盤と固い地盤が混在し、地盤が不均一に沈む恐れがある。仮に新基地が完成しても、維持管理に莫大な経費を擁する恐れがある。

 新基地建設は大きな課題があり、建設予定地としてはまったく適切な場所ではない。この問題をめぐって沖縄県と日本政府の間には裁判が行われている。しかし、県が軟弱地盤の課題や環境問題など大きな問題があることを訴えても裁判では認められず、結果として工事が止められていない。

 これまでの裁判で県はいくつもの問題点が明らかになったと考えている。県は新基地建設を行っている防衛局から埋め立て変更承認申請を、軟弱地盤の問題があることなどにより不承認とした。防衛局は国の機関であるにも関わらず、国民の権利、利益の保護を図る制度を利用して同じ国の機関である国土交通大臣に県が行った不承認処分の取り消しを求めた。国土交通大臣は訴えの通り、処分を取り消した。県はこの判断を不服として提訴していたが、先日、最高裁判所は沖縄県が不承認とした理由に触れることなく沖縄県の訴えを退けた。主権者である国民、地域住民の声に答える権限と責務を持っている沖縄県の自主性や自立性、ひいては日本国憲法に書かれる地方自治の本旨をも形骸化する極めて重大な問題だ。

 沖縄県の基地負担、特に辺野古問題は、環境や民主主義、地方自治の問題などさまざまな問題を抱えている。本来、安全保障の問題は国全体の問題だが、日本政府は日米安全保障体制を優先するあまり、一地域である沖縄に基地を集中させ続けている。繰り返すが、これは地域の自主性と自立性をおびやかしかねない自体と危惧している。

 この不条理な状況を抜本的に解決するため、日米両政府に対話による協議を求めている。

 今回、国連の場で国際社会のみなさんに沖縄の現状に感心をもっていただき、解決するための協力をいただきたい。

 沖縄で起きている問題は人権や、民主主義、環境の問題など世界の共通の問題で有り、共に考えてもらえればと思う。
皆様に、沖縄に思いをよせてもらい、一層の支援や協力をお願いする。

 いっぺーにふぇーでーびたん、ありがとうござました。

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