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【深掘り】政府、北朝鮮の「衛星」→「ミサイル」と強調 二重基準の「Jアラート」疑問も


【深掘り】政府、北朝鮮の「衛星」→「ミサイル」と強調 二重基準の「Jアラート」疑問も 北朝鮮の「衛星」発射に備え、上空に向けて構えるPAC3の発射機=21日、石垣市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 北朝鮮が21日深夜に軍事偵察衛星を発射した。22日午前0時以降とした予告期間を待たず、3度目の打ち上げに踏み切った。北朝鮮が発射を継続するとみて、防衛省・自衛隊は、先島諸島や那覇市への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)展開を継続する方針。4月下旬の展開開始から半年を超えており、展開はもはや常態化している。

 日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)で「ミサイル」と表現し、危機感を強調した。一方、県民の間では北朝鮮の打ち上げに対する注意や関心の薄れが見受けられ、街中では日常を送る姿が目立った。

 普段通り

 「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます」

 21日午後10時46分、県内の携帯端末が一斉に鳴り響いた。本島中部の大型商業施設では来場客がアラームを急いで止める姿が見られた。だが、慌てたり、避難をしたりする人の姿は皆無。音を止めると買い物やカフェでの飲食を継続していた。

 打ち上げについて政府は公式に「衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射」との認識を示している。一方、Jアラートでは「ミサイル発射」と断言し、表現に違いが出た。

 Jアラートでの表現について松野博一官房長官は「同じく弾道ミサイル技術を使用しているため、ただちに判別することは困難」だとし、「判別を待つことなく少しでも早く避難を呼び掛けるため、端的にミサイルと表現した」と主張した。

 県関係者は「落下の危険性が分かってからアラートを鳴らしても遅い面があるのだろう」と理解を示しつつ、発令のたびに関心が薄れるJアラートの在り方に「このままで大丈夫だろうか」と述べ、本来の効果が薄れる可能性を指摘した。

 政府関係者の一人は、テレビ中継された県内の映像に「Jアラートが鳴っているのにのんびり食事をしていた。(県民の反応について)検証する必要がある」と語った。

 二重基準

 北朝鮮の衛星打ち上げは今年5月と8月に続いて3度目となり、PAC3の県内展開も半年に及んでいる。防衛省関係者も「これほど長引くとは(当初)思わなかった」と振り返った。

 北朝鮮は今回、22日午前0時以降としていた予告期間を待たずに発射し、玉城デニー知事も「遺憾」だと反発した。自衛隊関係者は「その気になれば予告期間も守らないことが明らかになった」と述べ、PAC3展開の妥当性を強調した。

 一方、同じ方向に韓国が衛星を打ち上げた際にはPAC3を展開しておらず、Jアラートでの避難呼び掛けもなかったことから、同じ発射への対応と比べ「二重基準」との懸念もくすぶる。

 内閣官房の関係者は「北朝鮮は国連安保理決議に違反しているので国民の安全に関わる事だ。落下の可能性が高いか低いかでは判断していない」と話した。

 ジャーナリストの布施祐仁氏は「北朝鮮は本当にミサイルを発射する時は通告せずに東方へ打つ。人工衛星の発射時とは明らかな違いがある」と指摘した。韓国による衛星発射時との違いについて「Jアラートの発令に政治的判断が加わっている証しだ。国民保護という本来の趣旨がゆがめられている」とした上で「本来のリスク評価を超えた過剰な反応を続ければ、本当に必要な時にアラートが機能しないおそれがある」と懸念を示した。

 その上で、米朝首脳会談の実施など外交的取り組みが進んだ2018年には発射が1度もなかったとし「今やるべきは、米朝首脳会談の合意事項実現に向けた外交交渉を再起動させ、緊張緩和を図ることだ」とした。

 (知念征尚、明真南斗)