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残業規制、4月から拡大 「見通し立たない」給与減、転職検討の従業員も 労働改革で揺れる沖縄の製糖業


残業規制、4月から拡大 「見通し立たない」給与減、転職検討の従業員も 労働改革で揺れる沖縄の製糖業 久米島製糖の工場に運び込まれるサトウキビ=4日、久米島
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 サトウキビの収穫時期に仕事が立て込むため、働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制の適用が猶予されてきた鹿児島、沖縄両県の製糖業。4月からの完全適用で作業員の労働環境は大きく変貌するが、給与水準低下も予想され、業界関係者からは「今まで通りの生活を維持できるのか」などと不安を訴える声も出ている。

 給料の良さ

 3月上旬、久米島には初夏を思わせる暖かい風が吹いていた。車で島内唯一の製糖会社である久米島製糖(久米島町)の工場に近づくにつれ、トウモロコシのような甘い香りが強まっていく。砂糖需要に応えるため、過去に何度も増築が繰り返されたといい、体育館ほどの大きさだ。

 収穫したばかりのサトウキビがトラックでひっきりなしに運ばれ、裁断後に液を搾り取られる。それを濃縮し結晶化した後、遠心分離機にかけたものが粗糖だ。砂糖の原材料になる。同社取締役の山城成人さん(49)は「砂糖作りは工程の多い仕事」と評する。

 抽出されたサトウキビの液の糖度を確かめる業務に従事するのは、社員の島袋理恵さん(49)。シーズン期間中の昨年12月20日から3月下旬までは、1日11時間ほどを月に1日から2日の休みで働いてきた。月給は約35万円。中高大3人の子を抱える島袋さんにとって給料の良さはこの仕事の「最大の魅力」という。

 社員の安心

 だが来シーズン以降は1日の労働時間や残業代の見通しが立っていない。会社から具体的な説明はなく、不安が募る。「子どもと過ごす時間は増えるかもしれないけれど、学費を払い切れるかどうか分からない。これまで通りでも良いのだけれど」と声を落とした。

 来シーズン以降の残業代を単純計算した同社のシミュレーションでは月給が10万円以上減る社員が出る。基本給を引き上げ、減少幅を縮める考えだが、経営には痛手という。

 給与を重視する従業員や季節労働者の一部は転職を検討している。労働力不足に陥った場合、工場設備の改良による省力化で対応する予定だが、山城さんは「来シーズンは、どうなるか予測できない」と苦しげな表情を浮かべる。

 出来上がったばかりの粗糖の結晶は砂糖より少し大きく、薄茶色だった。すくい取ってなめると、ほのかに甘みが広がる。愛知県に運ばれて精製され、砂糖になる。山城さんは「会社の経営は厳しいが、製糖業は島内の雇用や農家の収入を守っている。社員たちの安心を守りたい」と、つぶやいた。

(共同通信)