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行政サービス悪化恐れ 総務省、対策を検討


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

総務省集計で、自治体の退職者が年々増え続ける深刻な実態が明らかになった。若手当事者は、非効率な業務が多く残る組織風土や長時間勤務が引き金になったと説明。各自治体は人員維持へ中途採用に力を入れる。総務省も対策の検討に乗り出した。

心身持たない

「前例踏襲の仕事とは思っていたが、手順や手法すら変えられないのはあり得ない。あと30年近く、非効率な仕事を続けるのは不可能だった」。東北地方の自治体を昨年辞め、今はベンチャー企業で働く30代男性は退職理由をこう振り返る。
関東地方の市役所を去った20代男性の退職理由は、住民によるクレームや過剰要求などカスタマーハラスメント(カスハラ)だった。「毎日、取るに足りない理由で怒鳴りつける市民もいて疲れた。上司がかばってくれないのにも絶望した」
コロナ禍の影響も深刻だ。西日本の中核市を辞めた20代女性は「休日出勤も当たり前で、超過勤務が月200時間を超えた時に心身が持たないと思った」と打ち明けた。

引き抜き

自治体にとって、将来にわたって組織を支え続けてくれる若手職員の補充は、大きな課題だ。
総務省によると、2022年度に全国の自治体が中途採用したのは9174人で、19年度の約1・5倍に上る。人材獲得競争は企業と自治体の間だけでなく、自治体間でも起きている。自治体関係者は「辞めた中堅・若手職員が『人と金』に余裕のある大都市に移るのは珍しくない。組織的に引き抜いていると疑いたくなる自治体もある」と不満を漏らす。
職員の数に加え、質の確保も難しくなっている。00年度前後に10倍を超えていた新卒採用試験の倍率は、22年度に5・2倍と過去最低を記録した。総務省の全自治体向けアンケートでは「能力のある人材が見つからない」との質問に、56%の自治体が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答。「今後、能力のある人材の確保がより難しくなる」と感じている自治体は、計82%に上った。

コスト

職員不足は、行政サービスの悪化を招きかねない。総務省は23年10月に有識者検討会を設け、対策の議論に乗り出した。最終報告は26年3月までに取りまとめる予定だ。
会合では、少子化による労働力不足で職員の大幅増は難しいとの前提に立ち、デジタル技術の活用や自治体間の協力を進め、業務効率や労働生産性を高めるべきだとの意見が出ている。
志願者増に向け、仕事のやりがい発信や多様な働き方の推進も論点。自治体の約4割が取り組めていないカスハラ対策は、先進事例を周知する方針だ。
悩ましいのは給与面の待遇改善。質の高い行政サービスを担える人材の確保には相応のコストが必要となるが、公務員人件費の増加は世間の理解を得られにくい。検討会委員の一人は「今後、どういう規模で、どういう質の公務員を求めるのか。雇い主として国民や住民が考える必要がある」と力説した。