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重要任務増、能力維持困難に 訓練不足、「常に事故のリスク」 海自ヘリ墜落


重要任務増、能力維持困難に 訓練不足、「常に事故のリスク」 海自ヘリ墜落 伊豆諸島の鳥島東方海域で回収された海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機のフライトレコーダー=21日(同隊提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が伊豆諸島沖で墜落し、1人が死亡、7人が行方不明となった。海自が「最重要任務」と位置付ける潜水艦対処の訓練中に起きた重大事故に衝撃が広がる。昨年4月に陸上自衛隊で10人が死亡したヘリ事故が起きるなど、航空機事故は相次いでいる。厳しい安全保障環境から実任務が増え、訓練に十分時間が割けず、能力維持が難しいとの指摘もある。

真っ暗闇

 20日深夜、伊豆諸島・鳥島東方の太平洋。海自の潜水艦やイージス艦、護衛艦など9隻とヘリ6機は「対潜水艦戦(対潜戦)」の訓練をしていた。
 だが午後10時38分ごろ、ヘリ1機の通信が途絶えた。間もなく別の1機も連絡がつかないことが判明。捜索活動で2機に搭載されたフライトレコーダー(飛行記録装置)が近くで見つかり、衝突した可能性が高い。
 海自トップの酒井良海上幕僚長は21日の記者会見で「夜間は視認性が下がり、難しいオペレーションになる」と説明。現場は当時、月が出ていなかったという。ある海自ヘリパイロットは「月明かりがなければ真っ暗闇で、感覚的には昼と夜ぐらい違う。リスクは格段に高まる」と強調する。

トップクラス

 防衛省・自衛隊は日本周辺の空と海で、他国の航空機や艦船が侵入しないよう、警戒監視や情報収集を続けている。海自は、冷戦期には旧ソ連の南下を抑え込み、中国の台頭とともに東シナ海から太平洋への進出を阻止するのを組織の存在意義としてきた。2機が訓練中だった「対潜戦」は、海中の動静を探る活動だ。敵の潜水艦が出す音や電波を探知して捜索や追尾、攻撃に当たる。
 日本周辺では近年、他国の潜水艦が相次いで確認されている。2018年1月に沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域で中国海軍の潜水艦が、20年6月と21年9月には鹿児島県・奄美大島周辺の接続水域で中国海軍と推定される潜水艦が、いずれも潜ったまま航行した。
 元海将で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は「海自は対潜戦で世界トップクラスの実力」と話し、中国と台湾の緊張関係から有事に発展すれば、日米連携のためには、海自の能力がさらに重視されるとの見方を示す。「相手に戦闘を思いとどまらせる米本土からの増援部隊を迎え入れるため、海自は西太平洋の航路を確保する非常に重要な任務を担っている」と解説する。

タイムラグ

 対潜戦を担う同型ヘリの夜間訓練中の事故は過去にも起きている。17年8月に青森県沖で1機が墜落し、死者が出た。21年7月には、鹿児島県・奄美大島沖で2機が接触した。再び重大事故が起きたことに、海自パイロットは「常にリスクがあることは自覚しているが、言葉がない」と悔しさをにじませる。
 事故の背景として、防衛省内には「予算不足に伴う飛行時間の低下」を挙げる声がある。日本政府は22年末に安全保障関連3文書を改定し、5年間の防衛費総額を約43兆円にすると明記。大幅な増額は中国の台湾有事を想定しており、現場部隊は中国への対処に追われ、基礎的な訓練が不足していると訴える隊員もいる。
 パイロットは「限られた予算、人員の中で必要なレベルを維持するのが自分たちの役目だ」と言い聞かせる。一方、制服組幹部は「現場部隊に予算が回り、訓練飛行の機会が増えるまでタイムラグがある」と話し、パイロットの熟練度を維持する難しさを指摘する。