有料

自民、抜本改革程遠く 野党酷評「羊頭狗肉だ」   


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 裏金事件の再発防止に向け、自民党が示した独自案は「政治家の責任強化」を柱に据えるが、抜本改革に程遠く、実効性に疑問が残る内容となった。使途公開不要で「ブラックボックス」と呼ばれる政策活動費の扱いは「検討」をうたうものの、事実上の棚上げに近い。野党は「羊頭狗肉(くにく)だ」と酷評し、国会で徹底追及する意向だ。

言い逃れの余地

 「必ず今国会中に規制の厳格化や罰則強化を伴う制度改正をする」。23日午後、自民党本部。政治刷新本部の作業部会会合で示された改革案には、岸田文雄首相の危機感を反映するかのような言葉が並んだ。同時に「全ての課題を一朝一夕に解決することは困難」と予防線も張った。
 裏金事件では、安倍派の会計責任者が在宅起訴されたのに対し、派閥幹部は「知らぬ存ぜぬ」を貫き立件を免れた。与野党から「トカゲのしっぽ切り」との批判が噴出。議員の責任範囲が不明確な現行法の限界が浮き彫りになった。
 そこで自民案は、政治資金収支報告書の提出時に国会議員による確認書の添付を義務付け、監督責任を負わせた。しかし「罰則」が科されるにはハードルが高い。(1)会計責任者が不記載・虚偽記載で処罰(2)議員が必要事項の確認を怠り確認書を交付―という二重の縛りがあるからだ。
 中堅は「どこまでが『確認』なのか。知らなかったと言い逃れできる余地が残る」と指摘する。

不透明な線引き

 さらに不透明なのは、収支報告書への不記載収入があった場合の没収規定創設だ。茂木敏充幹事長は22日の記者会見で「悪質、意図的な不記載、虚偽記載」が一定期間放置されれば、相当額を没収する仕組みの導入に触れた。
 何をもって「悪質、意図的」と判断するのか。自民は線引きを明らかにしていない。作業部会の実務者は、過失であっても没収対象になると説明する。
 裏金事件を巡る国会論戦では、野党が多額の不記載分に関し「脱税に当たる」と問題視した。非課税の政治活動費として証明できなければ、税務申告の対象となる可能性は高い。識者は「一般企業なら追徴課税が下されるはずだ」と制度設計に疑問を投げかける。

手放さぬ甘い蜜

 やっと表に出てきた自民案だが、執行部の一人は「こんな内容なら1カ月前でも公表できたはずだ」とぼやく。公明党の山口那津男代表も「首相は誠実に取り組むと語っていたが、肝心の実務者レベルが非常に腰が引けていた」と自民の対応に不満をあらわにした。
 実際、自民案は政治資金パーティー券購入者の公開基準引き下げや政策活動費、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開について「検討項目」と位置付け、優先順位は低い。連合の支援を受ける立憲民主党へのけん制か、労働組合の政治活動などの透明性も検討項目に挙げる一方で、野党が禁止を求める企業・団体献金に関する言及は全くない。
 結びでは「公開になじまない場合の取り扱いも配慮が必要」と、行き過ぎた政治資金の透明化を懸念する言葉も盛り込まれた。「甘い蜜は手放さない」と言わんばかりの自民案。立民の長妻昭政調会長は「抜け道があり過ぎる。衆院を解散し、わが党の案と自民案のいずれが良いか、信を問えばいい」と訴える。
 泉健太代表も26日の衆院政治改革特別委員会での論戦をにらみ、宣告した。「改革案と呼ぶに値せず、国民にとってゼロ回答だ。お茶を濁すようなことを許してはならない」