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イスラエル・イラン関係 「ゲーム」の力関係に変化<佐藤優のウチナー評論>


イスラエル・イラン関係 「ゲーム」の力関係に変化<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 前回連載で13日夜から14日にかけてイランがイスラエルをミサイルとドローンで攻撃した事案について筆者の見方を示した。その後、本件に関する動きがあったので取り上げることにする。19日、イスラエルがこれに対する反撃をイランに対して行ったと世界各国のメディアが報じた。ただし、イスラエルは反撃した事実を認めていない。

 有識者や記者の中には本件が第5次中東戦争を誘発すると懸念する人もいるが、筆者はそう考えていない。イランもイスラエルも「攻撃は互いに軍事目標に限る」というゲームのルールを順守しているからだ。イランは本件をエスカレートさせないというシグナルを出している。22日、イラン政府が事実上運営するウエブサイト「Pars Today」が米NBC記者とイランのアブドラヒアン外相とのインタビューを掲載したが、以下のやりとりが興味深い。

 〈Q 非常に手短ながら重要な質問をさせていただきます。イランは報復するのでしょうか?

 A もしイスラエルが挑発行為に出て何かしらの行動を起こすなら、我々の反応は以前とは異なるものになるでしょう。我々の以前の反応は最小限で、ごく限定的なものでした。我々は彼らの二つの軍事基地、つまりネバティム空軍基地と、イスラエル占領下のゴラン高原にある情報収集基地をターゲットにしました。この両基地はシリア首都ダマスカスのイラン大使館への攻撃に関与していました。もしイスラエルが挑発的な行動をとらなければ、イランはこの政権に対し新たな行動を起こすことはありません。

 Q 我々の情報源によると、昨夜イスラエルが報復し、イランを爆撃したのはイラン(※引用者註…原文のママ。イスラエルの誤記と思われる)だったとされていますが?

 A 昨夜(※引用者註…4月19日)起きたことは、非常に限定された範囲・空間での2、3機の無人機や小型のクアッドコプターの飛行であり、すぐに撃墜されました。また、この事件については誰も責任を認めていません。〉(22日「Pars Today」日本語版)

 イランは「目には目を、歯には歯を」という相互主義の原則で対応しているので、4月19日のイスラエルによる攻撃のような実害のないものに対しては反応しないという姿勢を示している。イスラエルもイランも感情的にならずにゲームを展開している。

 今回のイスラエルとイランの攻撃の応酬によって、従来、イスラエルがイラン国内で暗殺や破壊活動を行っても、イランはイスラエル国内での反撃を差し控えるというゲームのルールが変更されたことが明らかになった。イランの力がイスラエルと比較して強まっていることが明白になった。これはイスラエルの後ろ盾になっているアメリカの中東地域における影響力が弱くなっている現実を示している。

(作家、元外務省主任分析官)