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限界近づく「口先介入」 円高転換は米利下げ次第


限界近づく「口先介入」 円高転換は米利下げ次第 金融政策決定会合後に、記者会見する日銀の植田総裁=26日午後、日銀本店
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 歴史的な円安水準が続く中、日銀は26日の金融政策決定会合で、現状の緩和的な金融政策の維持を決めた。円安進行を抑える何らかの対策を警戒していた金融市場は「ゼロ回答」と受け止め、円売りを強めた。植田和男総裁から現状の円安を容認しているかのような発言もあり、流れは加速。円安をけん制する政府・財務省の「口先介入」も限界を迎えつつあり、円高への転換は米国の利下げ次第の状況が続く。

 「ハト派」

 午後0時半前に日銀が決定内容を公表すると、1ドル=155円台半ばだった円相場は156円台へと一気に下落した。投資家は長期金利の上昇につながる国債購入減額の打ち出し方に身構えていたが言及はなく「日銀は予想以上にハト派だった」(債券アナリスト)。金融政策でハト派は、景気を支えるため金融緩和的な政策を志向する人を指す。
 午後3時半に始まった総裁の記者会見では、円安への質問が集中した。植田氏は「基調的な物価上昇率に大きな影響は与えていない」と繰り返し説明し、現時点で無視できる範囲なのかと問われると「はい」と言い切った。会見中、円相場は下落し続けた。

 距離置く米国

 円安は輸出して稼ぐ自動車産業などには恩恵だが、輸入する食料品やエネルギーの価格を押し上げ、家計に痛手となる。物価高は岸田政権の支持率にも響き、通貨政策を担う財務省は円安に歯止めをかけようと必死だ。幹部は総裁発言に「配慮がない」と歯がみする。
 財務省は米国と協議を重ね、17日の日米韓財務相会合で、円安とウォン安への「日韓の深刻な懸念を認識する」との共同声明にこぎ着けた。日本の国際金融筋は、日本政府が市場でドルを大量に売って円を買い、円相場を押し上げる為替介入に踏み込む「ハードルが下がった」と評価した。
 鈴木俊一財務相は23日の参院財政金融委員会で「環境が整ったと捉えられてもよい」と、強い表現で円安をけん制。介入は近いかとも思われた。
 だが海外メディアによると、イエレン米財務長官は25日、介入は「とてもまれで例外的な状況」に限ると距離を置いた。介入の実施には売買する通貨の相手国の理解を得る必要がある。米国は手放しで介入を容認しているわけではない。

 大統領選

 今年に入り、多くの日米当局や市場関係者にとって誤算だったのは、米国の物価高が長引いていることだ。投資家が見込む利下げ時期は6月から9月以降へ遠のいた。
 11月の米大統領選の情勢も円相場に微妙な影響を与えそうだ。バイデン大統領は、自国の物価高を抑える効果のあるドル高円安の進行を静観。一方、貿易赤字を嫌うトランプ前大統領は「米国にとって大惨事だ」と批判を強めている。
 日銀は基調的な物価上昇率が目標の2%を下回ると説明しており、緩和的な金融環境を続ける方針だ。農林中金総合研究所の南武志理事研究員は「円安の是正は米国の利下げを待つしかないだろう」と指摘した。