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党勢回復、いばらの道 与党<衆院3補選の衝撃>上   


党勢回復、いばらの道 与党<衆院3補選の衝撃>上    自民党の派閥裏金事件を受け開かれた「政治刷新車座対話」であいさつする党総裁の岸田文雄首相=6日、熊本市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

衆院3補欠選挙で全敗を喫した自民党にとって、党勢回復はいばらの道だ。国会では裏金事件を受けた政治資金規正法改正で抜本改革を求める野党に対し防戦は必至。補選で支持離れが浮き彫りとなり、早期の衆院解散はリスクが大きい。党内では「選挙の顔」としての岸田文雄首相に対する不安はくすぶり続け、9月の総裁選をにらみ「ポスト岸田」の情勢は混沌(こんとん)としたままだ。

後ろ向き

「一つ一つ課題を乗り越えるしかないな」。28日夜、首相は唯一の与野党対決となった島根1区での敗北を知り、周囲に語った。見据えるのは、5月1~6日のフランス、南米歴訪後に本格化する規正法改正論議だ。
立憲民主党や日本維新の会は、議員の責任を問うハードルを下げ、公民権停止とする「連座制」導入を訴えるのに対し、自民案は適用要件を限定している。政策活動費の廃止や使途公開の義務付け、企業・団体献金の禁止も、自民は「自らの首を絞める」(ベテラン)として乗り気ではない。
補選で3勝した立民の泉健太代表は「選挙区民は自民案にノーを突き付けた」と気勢を上げた。自民が、野党案に歩み寄りを見せなければ改革に後ろ向きとの印象を与えかねない。与党協議を進める公明筋は「生ぬるい改革では持たなくなった」とくぎを刺す。

政権交代

総裁再選を目指す首相にとって、6月23日の国会会期末に合わせて衆院解散・総選挙に打って出て、勝利の余勢を駆って総裁選を無風で乗り切る―というのがベストシナリオだった。
しかし、保守王国・島根の大敗は、裏金事件に伴う「自民不信」の大きさを物語る。共同通信社が実施した出口調査では、自民支持層の26%、無党派層は74%が立民候補に投票した。首相が二度も現地に応援演説に入ったが効果はなかった。
総選挙になれば大幅に議席を減らす恐れがある。現職閣僚は「首相では選挙にならない。これで解散したら政権交代だ」と指摘。茂木敏充幹事長は28日夜、信頼回復に「時間がかかる」と記者団に強調した。公明党幹部は旧知の自民議員から「早期解散は公明が止めてくださいよ」と懇願されたと明かす。

地殻変動

自民内では補選前から「補選全敗なら岸田降ろしだ」との声のほか、投開票日後も「首相の責任は免れない」と指摘する声はある。そこでキーパーソンと目されるのは、首相と距離を置く菅義偉前首相だ。二階俊博元幹事長や小泉進次郎元環境相らと近い。「菅さんの本命は石破茂元幹事長だ」。菅氏に近い閣僚経験者はこう語る。
ただ世論調査での人気の高さと裏腹に党内不人気が根強い石破氏が、衆目の一致する「ポスト岸田」になり得るか見通せない。党内には「敗戦は織り込み済み」との反応が多く、首相の責任論は現時点で広がっていない。中堅は「内紛は有権者から見放されるからだ」と説く。とはいえ、党三役経験者の一人は、こう予測した。「党内の地殻変動はすでに起きている。動き出すのは国会閉幕前後だろう」
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28日投開票された衆院3補欠選挙は自民党が全敗、立憲民主党が全勝した。岸田文雄首相の政権運営は厳しさを増し、立民は早期の衆院解散を求め攻勢を強める。明暗分かれた与野党の動きを展望した。