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【深掘り】土地規制 広範囲に 指定、地元の意向を無視 きょう復帰52年(地図あり) 


【深掘り】土地規制 広範囲に 指定、地元の意向を無視 きょう復帰52年(地図あり)  沖縄県の米空軍嘉手納基地
この記事を書いた人 Avatar photo 知念 征尚

 米国が沖縄の施政権を日本に返還し、沖縄が日本に「復帰」してから、15日で52年を迎えた。復帰から半世紀を経て、インフラの整備や生活水準の向上により、人口は約1・5倍に増え、経済面では発展を遂げた。一方、依然として国内の米軍専用施設面積の7割以上が集中する。さらに近年では自衛隊の「南西シフト」が加速し、県民の基地負担は今もなお重いままだ。さらに15日には、米軍基地や自衛隊施設周辺が土地利用規制法に基づく注視区域・特別注視区域の対象に加わり、区域内での監視が強まるのではないかという懸念も高まる。県民の望んだ自由で平和な沖縄は、いまだ遠い。

 内閣府は15日、土地利用規制法に基づき、米軍基地・自衛隊施設の周辺を新たに指定区域に加えた。米軍基地などが集中する沖縄本島の広範なエリアが含まれる。この日は沖縄の日本復帰から52年の節目。復帰時に県民が描いた「基地なき沖縄」の理想とは裏腹に、近年は自衛隊施設の増強が続く。米軍は基地を自由に使用できる一方、基地外で暮らす県民は民間地域での土地利用も制限されようとしている。

 今回の区域指定では沖縄本島の米軍基地や自衛隊施設など31カ所が新たに対象となる。

■“二重基準”

 2023年8月に施行された区域と合わせ、県内では計70カ所が指定されることになる。全国で最も多く、国土の0・6%の県土に防衛関連施設が集中する米軍基地や自衛隊施設の弊害が改めて浮き彫りとなった。

 区域指定にあたっても“二重基準”の問題が指摘される。

 実施にあたって国が示した「基本方針」は(1)区域の大部分が人口集中地区である(2)区域内で人口20万人以上の市町村と同等以上の土地取引が行われている場合―は、一定面積以上の土地売買での事前届出が必要になるなど規制度合いが強い「特別注視区域」には指定しないことがある、とした。社会経済活動への影響に配慮するためだ。

 指揮中枢・司令部機能を有し、防衛の「核」となる都内にある防衛省の市ケ谷庁舎は、本来は特別注視区域となる場所だが、この方針に基づき「注視区域」とされた。

 一方、人口30万人を超える県都・那覇市は陸上自衛隊那覇駐屯地や米軍那覇港湾施設が立地するため、小禄駅周辺や那覇市旭町、西、東町の一部、豊見城市の瀬長島といった広い範囲が特別注視区域に指定された。

 内閣府は基準を満たしていないと理由を説明する。だが、施行を前に会見した加藤裕弁護士(土地規制法対策沖縄弁護団長)は「指定が恣意(しい)的で、目的とかい離している」と疑問視した。

■内閣府のさじ加減

 区域指定にあたって内閣府は、関係自治体から意見聴取を実施した。

 県は、タイヨーゴルフクラブや緑地ひろばとして一般開放されたロウワー・プラザ住宅地区は「防衛基盤に該当するとは考えられない」として特別注視区域としての指定の見直しを要望した。

 那覇市は市域の大部分が人口集中地区であるとして、特別注視区域とされた地域を注視区域に見直すよう求めたほか、米軍普天間飛行場が所在する宜野湾市も「当市の米軍施設はすでに返還が決まっている」として指定しないよう訴えたが、内閣府は見直さなかった。

 自治体に対する意見聴取は「地方公共団体の理解、協力を得ていく」(2021年5月26日の衆院内閣委員会での内閣官房内閣審議官答弁)ことを目的に実施されているにも関わらず、地元の意向を無視した区域指定がなされている。

 指定にあたり名護市は地域への説明会開催などを求めたが、これまで実施されていない。住民が意識できない「ステルス」状態で、個人情報の収集を含む国の調査が始まることになる。

 加藤弁護士は法律が規制しようとする「機能阻害行為」について、国が「一概に言えない」と説明していることに対し「(どういった行為が問題になるかが)内閣府のさじ加減に任されており、非常に危険だ」と制度設計を問題視した。「法律が施行されたから終わりではなく、法の運用を監視し、できる限り公開していく取り組みが必要だ」と強調した。

(知念征尚)