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脱炭素化実現へ難題 原発の将来像どう描く


脱炭素化実現へ難題 原発の将来像どう描く 電力需要の実績と見通し
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 電力政策などの羅針盤となるエネルギー基本計画の見直し作業が始まった。国が後押しする人工知能(AI)活用や半導体生産には大量の電気が必要で、2050年の脱炭素化実現に向けて再生可能エネルギーをさらに上積みする難題が待ち受ける。発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発の将来像をどう描くのかも争点となる。

「脱石炭」圧力

 「今日本はエネルギー政策における戦後最大の難所にある」。斎藤健経済産業相は15日開いた有識者会合の冒頭で訴えた。100ページを超える会合資料には「不確実性」「地政学リスク」といった危機感をかき立てる言葉がちりばめられた。
 現行の第6次計画の閣議決定は21年10月。それ以降、ロシアのウクライナ侵攻で火力発電燃料の高騰に拍車がかかり、燃料を輸入に頼る日本は電気料金の値上げに直面した。地震で火力発電所が止まるなどし、首都圏が大規模停電に陥りかねない瀬戸際も経験した。
 総発電量の約7割を火力が占める電源構成に対し、先進7カ国(G7)が35年までの「脱石炭」に合意するなど、変革を求める国際的な圧力も強まっている。

シナリオ

 日本の電力需要は11年の東日本大震災以降、節電意識の高まりを背景に鈍化傾向をたどった。だが電気事業者による「電力広域的運営推進機関」は今年1月、24年度から増加に転じるシナリオを公表した。AI向けデータセンターや半導体工場の新増設が、需要を押し上げるとの想定だ。大手電力幹部は「排出削減が求められる中で電力需要が増えれば、脱炭素目標の達成は相当難しくなる」と話す。
 政府は今回の改定で、発電時にCO2を排出しないアンモニアや水素を、火力発電燃料と置き換える方針を盛り込む考えだ。風車を海に浮かべる浮体式洋上風力発電や、窓ガラスなど多様な場所に設置できる「ペロブスカイト太陽電池」といった次世代型の技術も繰り出し、再エネを積み増す。ただ、現行計画で30年度に総発電量の36~38%まで伸ばすと掲げた再エネの割合は22年度実績で21・7%にとどまり、達成への道のりは遠い。

支持率

 そこで今回も争点になりそうなのが、原発の活用だ。世界の投資家は今、脱炭素の取り組みが不十分な企業に背を向けつつある。経産省幹部は「脱炭素電源がない地域に台湾積体電路製造(TSMC)のような大手はやってこない。原発を前に進めないといけない」と強調する。
 東京電力福島第1原発事故以降、脱炭素のために原発推進を求める主張はいったん下火になった。現行計画は事故を教訓に、原発は「可能な限り依存度を低減する」と明記している。
 だが岸田政権の様相は異なる。22年12月には脱炭素を掲げた「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」に原発と再エネの活用を明記した。原発の次世代型への建て替えや、運転期間60年超への延長も打ち出した。
 ただ原発の積極的活用には国民の抵抗感が根強く、福島事故後に再稼働した原発は12基にとどまる。現行計画の策定に関わった有識者は「いずれどこかで首相が判断しなければならない政治案件だが、支持率が低すぎる。難しい議論になるだろう」と見通した。