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DV懸念、具体策先送り 推進派も疑問視、不安の船出


DV懸念、具体策先送り 推進派も疑問視、不安の船出 参院法務委員会での論点と政府答弁
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 離婚後の共同親権を可能にする民法改正案が16日、参院法務委員会を通過した。親権の在り方を77年ぶりに見直す法案の審議では、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者らの懸念が再三示されながら、政府が打ち出したのは家庭裁判所の態勢強化など、具体性に欠ける内容ばかり。改正案は17日に成立が見込まれるが、推進派議員も疑問視しており、不安を抱えたままの船出となる。
 「家族は夫婦関係、親子関係の横糸と縦糸で紡ぎ出される。横糸が切れても、縦糸が残る道を探っている」。14日の参院法務委員会。小泉龍司法相は家族関係を糸にたとえ、離婚後も親子関係を継続させることが共同親権の狙いだと強調した。
 離婚後は父母どちらかの単独親権と定められたのは戦後間もない1947年。親が離婚した未成年の子は2022年で約16万人となり、50年当時と比べ2倍に増えた。
 子どもを取り巻く環境は多様化し、21年の国の世論調査では、離婚後も父母が養育に関わることについて肯定的な考えの人が約9割を占めた。政府は、共同養育が「理想像」であることは国民に浸透したとみる。ただDVや虐待の被害者からすれば、加害者側との接点が生まれる可能性のある共同親権への懸念は根強い。参院法務委では、新制度で重要な役割を果たす家裁に関する質疑が繰り広げられた。
 共同親権とするかどうかは父母の合意か家裁の判断で決まる。DVや虐待の恐れがあれば単独親権とされるが、家裁が適切に判断できるかどうかは未知数だ。
 この点について最高裁の担当者は「当事者の安全安心を最優先に考慮する」と答弁。施行後は申し立ての増加が予想され、マンパワー不足を指摘する声もあるが「施行に向けて必要な人的、物的態勢の整備に努めたい」と述べるのみだった。
 司法統計によると、全国の家裁が22年に受理した家事事件の申し立ては約114万件で、12年から30万件近く増えた。子どもの重要事項決定で意見が割れた場合の調整機能も期待され、パンク状態に陥らないか危惧する声もある。推進する立場の自民党議員ですら「裁判所にげたを預け過ぎでは」と苦言を呈した。
 不安の広がりから離婚当事者らによる反対派集会は各地で行われ、審議の中止を求めるオンライン署名の数は16日時点で約24万人となった。
 政府は当初「審議が難航する与野党の『対決法案』になるかもしれない」(法務省幹部)と警戒を強めていた。だが、抵抗していた立憲民主も、付則の一部修正などを見届けると賛成に回った。立憲民主のある議員は反対派の集会でマイクを握り「欠陥法案だ」とこき下ろしつつも苦し紛れに語った。「賛成しないと譲歩を引き出せなかったようだ」
 多くの人が釈然としない中、共同親権は導入される見通しだ。