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「子ども苦しめないで」 面会時の虐待 見逃す可能性


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 共同親権の導入を柱とした民法改正案は子どもの人格尊重をうたい、虐待の恐れがあれば単独親権にすると規定する。改正案と類似制度があったオーストラリアで幼少期、同国籍の父と面会交流中に虐待に遭ったという女性は、日本で制度が導入された場合に被害が見逃される可能性があるとし、安全確保に関する議論が十分ではないと危機感を抱く。「子どもを苦しめないで」と訴える。
 西日本に住む俊子さん=仮名=は、オーストラリアで生まれて間もない頃、母が父によるドメスティックバイオレンス(DV)を訴え、父と別居。現地の裁判所の判断で、月に数回、父と過ごすことになった。
 父の家では無理やり食事をさせられたり、夏に冷房のない部屋に閉じ込められたりしたこともあった。当時、けがを負うなどして帰宅した俊子さんを心配した母が、現地の行政機関に相談。父は虐待を否定したといい、面会交流はその後も続いた。
 「命を守る」と母が決心し、俊子さんは日本に避難。面会交流での父の様子を母に打ち明けたのは、その後のことだ。
 オーストラリアの家族法は2006年の改正で、子どもの養育を担う上で面会交流への積極性を重視する条項があった。DVや虐待被害の当事者たちは、被害の訴えが不利に働くことを懸念し、主張しづらくなっていたとされる。09年、DV加害者が面会中の子どもを殺害する事件が起き、11年の法改正で条項は削除。現在は子どもの安全を第一に考慮された内容に見直された。
 日本の民法改正案は父母が折り合えなければ家庭裁判所が判断し、虐待やDVの恐れがある場合は単独親権となる。4月の参院法務委員会では、虐待やDVは証拠が残りにくく、家裁が見逃して、共同親権が認められる恐れがあるとの指摘も上がっていた。
 俊子さんは現在も不眠などに悩み、通院が続いている。「苦しみは消えない。運良く生き残っただけ」。子どもの意見を基に、養育環境を整える仕組みを作らなければ「命を失う子がいるかもしれない」と危ぶむ。
 児童精神科医の渡辺久子医師は共同親権を巡る議論は離婚で傷ついた子どもを置き去りにしたまま続いていると指摘。「まずは子ども
の安心と安全の確保が重要」だと訴える。「DVや虐待のリスクを判断する家裁は、子どもの精神保健について研修を重ね、体制を強化することも必要だ」と話した。