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残業規制のしわ寄せ懸念 個人宅配ドライバー 酷使防止へ「法整備を」


残業規制のしわ寄せ懸念 個人宅配ドライバー 酷使防止へ「法整備を」 大量の荷物を配送する40代男性ドライバー =2月、神奈川県横須賀市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 運送業界で4月から残業規制が始まったが、対象にならない個人事業主(フリーランス)の宅配ドライバーがしわ寄せを被るとの懸念が広がっている。専門家は、運送会社が社員の残業を減らそうと業務委託を進め、個人ドライバーの長時間労働につながった可能性があると指摘。「酷使を防ぐための法整備が必要だ」と訴える。
 「殺人的な量だ」。アマゾンジャパンの下請け運送会社から、神奈川県内での配送を委託されている40代男性は、1日分として割り振られた232個の荷物にため息をついた。アマゾンのアプリが示す配送ルートに従って連日12時間働く。仕事を始めた2020年から荷量は倍以上となったが、報酬はわずかに増えただけ。雇用契約ではないため残業代は出ない。
 国土交通省によると、軽貨物運送に携わるのは22年度末で約22万3千事業者。大半は個人事業主とみられる。10年間で4割以上増え、新規参入の多さが目立つ。インターネット通販の普及で宅配需要が高まったことに加え、残業規制を見据えた運送会社が、業務委託への切り替えを進めたことも要因とされる。
 個人ドライバーの実態を把握しようと、国交省が23年春に実施した調査では、応じた約770人のうち、4割が1日の平均労働時間を11時間以上とし、2割が13時間以上と回答。当時、事故の多発が問題化していたが、長時間労働が原因との可能性が示された。
 運送業に4月から適用された残業規制では、労働基準法に基づき、残業の上限を年960時間としている。ただ、同法が適用されない個人事業主は対象外。政府は業務発注者に向け、短納期での大量発注を控えるなど留意点を指針にまとめたが、過重労働を防ぐ根本的な仕組みとは言えない。
 アマゾンのドライバーを支援する弁護団は、個人ドライバーの多くが肩書こそ事業主だが、実態は発注者の指揮監督下にあり、労働者と変わらないと指摘。委託ではなく雇用契約とし、残業規制のほか、社会保険料の企業負担などで保護されるのが本来あるべき姿だと強調する。
 弁護団の棗一郎弁護士は労基法などの改正により「個人事業主に自由な裁量があると企業側が立証できなければ、雇用とみなすようにすべきだ」と主張。低コストの労働力として安易に業務委託することを防ぐルール作りが必要だと訴えた。

<用語> 個人事業主 企業などの組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き手。法令上の明確な定義はなく、IT技術者、建設業の「ひとり親方」、食事宅配サービスの配達員など幅広い。2020年の政府調査では国内に推計462万人。立場の弱さが指摘されることもあり、政府は23年5月、適正取引やハラスメント対策を発注元に義務付ける新法を公布した。