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中東混迷に拍車も 指導部に動揺走る 米は対応仕切り直し イラン大統領急死


中東混迷に拍車も 指導部に動揺走る 米は対応仕切り直し イラン大統領急死 イラン政権での主な出来事(写真はロイターなど)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 緊迫する中東情勢を左右してきたキーパーソンの一人、イランのライシ大統領(63)がヘリコプター墜落で死亡した。最高指導者ハメネイ師(84)の有力後継者とみられてきた人物の急逝に、イラン指導部には動揺が走る。米国やイスラエルとの対決姿勢を維持しつつ紛争拡大には一定の歯止めをかけてきたライシ師と、3年にわたり駆け引きを続けてきた米国も対応の仕切り直しを迫られ、中東の混迷が深まる恐れもある。 (1面に関連)

秘蔵っ子

 「国政に混乱はない」。ライシ師が乗ったヘリの墜落が報じられ始めてから約5時間後の19日夜(日本時間20日未明)、国営メディアを通じてハメネイ師の演説が流れた。イスラム革命体制に揺るぎはないと、国内外にいち早くアピールしたい思惑がにじんだ。
 ライシ師は2017年の大統領選では敗れたものの、体制内で重要ポストを歴任してきた。ハメネイ師が後継者として経験を積ませてきたことがうかがえる。忠実な「秘蔵っ子」の突然の死で、ハメネイ師の目算が狂ったのは間違いない。

恐怖の弾圧

 だが司法界出身のライシ師は政治経験に乏しく、当初から政権運営手腕を不安視する声もあった。22年9月、女性が髪を隠すヘジャブ(スカーフ)の着用義務に反対するデモがイラン全土で発生。ライシ師は治安当局を動員して徹底弾圧し、死者が続出する事態に。社会改革を求める市民には恐怖が植え付けられ、体制への不信は広がった。
 人権弾圧や核開発などを受けた米国の制裁は続くが、解除される見通しは全く立っていない。ライシ師は「自立型経済」を盛んに呼びかけたが経済は低迷。国民の不満は高まってきた。
 安全保障面でも、綱渡りの危うさだ。23年10月にパレスチナ自治区ガザで戦闘が始まって以降、イスラム組織ハマスを支援するイランとイスラエルの対立は激化。在シリア・イラン大使館空爆に対する報復として今年4月にはイランがイスラエルを初めて直接攻撃し、イスラエルが反撃する事態に発展した。
 強権的で反米色が強かったライシ師の死去を受け、イランの姿勢に変化が生じる可能性があるかどうかを、バイデン米政権は注視している。

外交の余地も

 21年8月のライシ政権発足後、ロウハニ前政権末期から欧米が再建を模索してきたイラン核合意の間接協議は停滞。イランの強硬姿勢に手を焼いてきた米国だが、一方で「大変困難ではあるが、外交が機能する余地もあった」と米政府高官はライシ政権を評する。
 23年9月には、米イラン両政府による囚人交換で解放された米国人5人が帰国。今月中旬にはガザ情勢が地域紛争に発展する事態を阻止しようと、オマーンの仲介で米イラン両政府高官が間接的に協議したと報じられ、ライシ政権が対米関係を冷静に管理しようとする一面も印象付けていた。
 イラン内政が保守強硬派の台頭で非民主色が強まったとバイデン政権は分析しており、次期大統領選でロウハニ師のような穏健派や改革派が選出されるシナリオには悲観的だ。さらに過激な「超」保守強硬派の大統領が誕生すれば、中東情勢対応の複雑さが増すことになりかねないと、神経をとがらせている。(テヘラン、ワシントン共同=渡会五月、新冨哲男)