有料

原発なく「良かった」 03年計画凍結、人口減で嘆きも 能登地震被害の珠洲市


原発なく「良かった」 03年計画凍結、人口減で嘆きも 能登地震被害の珠洲市 珠洲原発の立地予定地
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 能登半島地震により甚大な被害が出た石川県珠洲市では約50年前から「珠洲原発」の立地計画があり、2003年に地元の反対などを受け凍結された。激しい揺れや津波の被害を前に「原発がなくて良かった」と安堵(あんど)する住民がいる一方、加速する人口減少に嘆きの声も。専門家は「振興策としての原子力施設の建設が合理的なのか再考が必要」と訴える。
 予定地の一つだった珠洲市北東側の海に面した三崎町寺家(じけ)地区近くの気象庁観測点では元日、震度6強を記録。高台に建設する計画だったが、土木学会の調査チームは地区で、高さ4・7メートルまで津波が到達した痕跡を確認した。大きな揺れに耐えきれず崩れた家も散見され、海岸では隆起した場所に白い岩が出現した。
 市議会が1975年、立地調査を国に要望。翌年、中部電力と北陸電力、関西電力の3社が共同で準備を始めた。地元は賛成派と反対派に二分。寺家地区と同市北側の海に面した高屋地区に、それぞれ135万キロワット級を建設する計画は反対運動に加え、電力需要の減少予想を背景に凍結された。
 反対派として活動していた元珠洲市議のライター落合誓子さん(77)は「地震は自然災害だから仕方ないと住民同士で言い合える明るさがまだある。原発があったらそうは思えなかったはずだ」と語気を強める。
 石川県志賀町の北陸電志賀原発1、2号機は2011年の東京電力福島第1原発事故以降、運転を停止し、大事故には至らなかった。だが地震により住民の避難経路が寸断され、防災対策のもろさも露見した。珠洲市在住で、志賀原発の運転差し止め訴訟の原告団長を務める北野進さん(64)は「珠洲は半島の先端で、原発があればより避難も難しく、孤立してしまっただろう」と分析する。
 一方で「原発がないことを手放しに喜べない」と話すのは、原発誘致に賛成した現職の珠洲市議だ。「人口減少に直面する地元には原発がないとやっていけないと思っていた」と振り返る。「数十年で人口減少が進んだ。反対派は原発の代案を出せてきただろうか。地震により人口減少はますます進むだろう」と複雑な胸の内を明かす。
 金沢大の佐無田光教授(地域経済学)は「原発立地の交付金で自治体が受ける恩恵は絶大。珠洲市は原発がないからこそ、地元の価値を模索する余地がある」と指摘。その上で「各地で地震が頻発する中、人口減少の解決策として、原子力施設という長期的リスクを背負う選択が合理的か否か、自治体はより議論を深める時だ」としている。