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有罪立証に固執、批判強く 「捏造」捜査、言及焦点   


有罪立証に固執、批判強く 「捏造」捜査、言及焦点    袴田巌さんの再審第15回公判後に記者会見する主任弁護人の小川秀世氏(左)と姉ひで子さん=22日午後、静岡市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 静岡県の一家4人殺害事件で死刑が確定し、潔白を訴え続けた袴田巌さん(88)のやり直し裁判の審理が22日、終結した。再審請求審で裁判所に証拠捏造(ねつぞう)の疑いまで指摘された不利な立場の検察側は、再審公判でも有罪立証に固執し、再び死刑を求刑。かたくなな姿勢には当事者だけでなく、専門家からも批判が上がる。無罪の公算が大きい9月の判決では、当時の捜査の在り方への言及も注目される。

真実に目を

 「いいかげん真実に目を向けてください」。袴田さんの弁護団の小川秀世主任弁護人は22日の法廷で、検察側の姿勢を厳しくただした。
 請求審に続き再審公判でも、確定判決で犯行着衣とされた「5点の衣類」に残された血痕の「赤み」が最大の争点になった。検察側は新たに法医学者の鑑定書を提出。発見直前に捜査機関が衣類を隠したと追及する弁護側と、最後まで激しくぶつかり合った。
 袴田さんが犯人と認められる。そうである以上、犯罪は極めて悪質で、極刑が相当だ―。そうした理屈で死刑を求刑。閉廷後、記者会見した姉ひで子さん(91)は「検察の都合でやっていることだと思う」と語り、釈然としない表情を見せた。

一貫せず

 袴田さんの再審を巡り、検察の態度は一貫性を欠いたように映る。再審開始を認めた昨年3月の東京高裁決定に対し特別抗告を見送り、決定に従う姿勢を見せながら、再審公判では有罪主張に立ち戻った。ある幹部は「特別抗告したくてもできなかった」と説明する。法律上、特別抗告が認められるのは憲法違反がある場合などに限られる。具体的な事実関係は再審公判で争わなければならない。こうした事情で最終的に、抗告しないと判断したという。
 法務・検察内部でも異論があった抗告見送り。別の幹部は「メンツのため有罪立証し、死刑求刑したということはこれっぽっちもない。犯人だと十分認められる証拠がある」と強調した。
 戦後、死刑事件の再審公判は袴田さんで5例目。免田、財田川、松山、島田の過去4事件の再審公判でも、検察側は有罪主張を維持して死刑を求めたが、裁判所に退けられた。そもそも再審は「無罪と言い渡すのが明らか」な場合に開かれる。

是正を

 9月の静岡地裁判決では、結論だけでなく、当時の捜査や裁判の問題点にどこまで踏み込むかもポイントとなる。東京高裁は、5点の衣類を「捜査機関の者が隠匿した可能性が極めて高いと思われる」とし、証拠捏造の疑いを示唆。弁護団の田中薫弁護士は「判決に『捏造』と書いてくれることを期待している」と話した。
 甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は、請求審で有罪立証は尽くされたはずだと検察を批判。「無理筋な主張を繰り返すのではなく、公益の代表者として冤罪(えんざい)を防ぎ、是正すべきではないか」と指摘する。その上で、袴田さんが40年以上身柄を拘束されたように、審理が長期化するなど、再審の制度面に不備があるとする。「(静岡地裁の)判決後、検察や裁判所は何を誤ったのか検証し、刑事司法の在り方を考えなおすことが必要だ」と求めた。