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「性加害目的」判断難しく 確認対象を限定、批判も


「性加害目的」判断難しく 確認対象を限定、批判も 日本版DBSの対象と課題イメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 衆院を全会一致で通過した「日本版DBS」創設法案では、雇用主側に確認を義務付ける性犯罪歴の対象に、下着の窃盗やストーカー規制法違反などが含まれていない。政府は「性加害の目的」があると判断するのが難しいことを理由に挙げ、市民団体や野党から批判の声が上がる。職種も限定され、フリーランスの家庭教師といった個人事業主は対象外となる。後を絶たない子どもの性被害を防げるのか―。実効性に疑問が残る。
 「(下着窃盗などが)対象となっていないのは不適切ではないか」。14日の衆院特別委員会で立憲民主党の早稲田夕季氏は法案の「不備」をただした。
 加藤鮎子こども政策担当相は下着窃盗は財産に対する罪、ストーカー規制法違反は恋愛感情を満たす目的で付きまとうことを内容とする罪で「人に対する性暴力とは言えない」と答弁し、対象に含まれないと強調した。
 これに対し交流サイト(SNS)では「理解できない」と批判の声が相次いだ。対象に含むよう求めるオンライン署名は3万人分を超えた。署名を募り、政府に提出した市民団体の代表福田和子さん(28)は「下着窃盗などが性暴力に当たらないと言うのは2次加害。許されない」と訴えた。
 日本版DBSは確認対象を「特定性犯罪」と指定。内容は「人の性的自由を侵害する性犯罪や、性暴力の罪」とし、不同意性交罪や不同意わいせつ罪などの刑法犯に加え、痴漢や盗撮といった条例違反、児童買春・ポルノ禁止法違反も含む。
 一方、下着を盗む窃盗罪や、衣服に体液をかける器物損壊罪などは対象外だ。これらの行為に性加害の目的があったかどうかは犯罪成立の要件になっておらず、公道を裸で歩くなどの公然わいせつ罪も、被害者が特定しにくいことなどから対象とならない。
 国会で加藤氏は、裁判所が動機や目的まで認定するとは限らないとして「(性加害の目的で行われたものを)切り分けるのは難しい」と述べた。
 性暴力問題に詳しい上谷さくら弁護士は法案を「子どもの性被害を減らすための全く新しい取り組みだ」と評価する。ただ、罪名だけで性犯罪かどうかを判断するのは難しいと指摘。例えば住居侵入罪でも、実際は盗撮目的だったという場合もあり得るとして「罪名にかかわらず、性犯罪の要素があるものをどう見極めるかが重要だ」としている。
 対象の職種も網羅されているとは言いがたい。
 日本版DBSは、仕事の性質が(1)子どもと密接な人間関係を持つ「継続性」(2)指導など優越的立場の「支配性」(3)他者の目に触れにくい「閉鎖性」―の3要件を満たす場合を対象とする。
 学校の教員・教諭、保育所の保育士、スクールカウンセラーのほか、部活動のボランティアも3要件を満たせば対象に含まれる。一方、登下校の見守り活動のボランティアは「児童らとの接触を前提とする業務とは限らない」として対象外。テーマパークのイベントスタッフも、子どもが1度だけ遊びに行くことが想定されるとして除外された。22日の衆院特別委では、確認対象の範囲拡大の検討を求める付帯決議が採択された。犯罪では下着窃盗やストーカー規制法違反を、職種ではフリーランスの家庭教師やベビーシッターといった個人事業主を含めるよう求めている。線引きの妥当性は参院でも最大の焦点となる見通しだ。