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融和演出、残る不信 日韓結束、中国と溝 日中韓首脳会談


融和演出、残る不信 日韓結束、中国と溝 日中韓首脳会談 日中韓首脳会談のポイント
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日中韓首脳が約4年半ぶりに会談に臨んだ。トップ外交で関係を改善した日本と韓国は結束し、安全保障や経済分野で中国への関与を強化。「最大公約数」を取りまとめた共同宣言発表にこぎ着け融和を演出した。だが日韓と中国との間の溝は深く、不信は残る。核・ミサイル開発を進める北朝鮮を巡る記述は後退し、北東アジアの平和と安定の行方は視界不良だ。(1面に関連)

 歯車

 「3カ国の協力に光を当て、さらに輝かせていきたい」。27日、韓国・ソウル。会談冒頭、岸田文雄首相はこう述べ、日中韓連携の重要性を強調した。
 日本は、首脳レベルの意思疎通を通じ、3カ国の関係安定化を目指した。外務省幹部は「トップ同士が会い、初めて歯車が回る。協力を積み重ねれば『根雪』のように関係は残っていく」と意義を強調する。
 とりわけ韓国とタッグを組むことを重視。北朝鮮、ロシアに傾斜する中国に対し、2対1の構図に持ち込む戦略を取った。首相周辺は「これまでは中韓が歴史問題で結託し、日本が孤立していた。韓国との関係改善は大きな成果だ」と胸を張る。
 韓国政府筋も「日韓が連携して中国と向き合い、地域の問題に対応するという共闘姿勢を示せた」と手応えを語った。大統領府は会談後「議長国として議論を主導した」と成果を誇示。尹錫悦大統領が対日関係を修復し、会談実現まで導いた手腕をアピールした。

 譲歩

 共同宣言の取りまとめで焦点となったのは北朝鮮情勢だった。複数の外交筋によると交渉過程で、日韓は前回2019年の合意文書に盛り込んだ「朝鮮半島の完全な非核化にコミット」との文言を再び落とし込むよう求めた。しかし中国は抵抗。今年、国交樹立75周年を迎える北朝鮮との関係を重視したとみられる。
 交渉に携わった日本政府筋は「中国は当初、北朝鮮部分の全削除を主張していたが譲った」と明かす。協議を重ね、共同宣言では「朝鮮半島の非核化についてそれぞれ立場を強調」との表現で落ち着いた。
 北朝鮮を巡って譲歩した一方で、中国が力を注いだのは日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉加速化だった。
 中国は「弱点」とされる先端半導体分野で米国主導の輸出規制強化を受ける。欧米各国から工業製品の「過剰生産」を相次ぎ批判され、「八方ふさがり」(中国外交筋)の状態が続く。交渉加速化を確認することで事態を打開できると同時に、日韓と同盟国の米国による連携にくさびを打ち込めるとの狙いがあった。
 ただ日韓は米国などと同様、中国の貿易制限による「経済的威圧」を問題視する。共同宣言では「自由で公正な質の高い互恵的なFTA実現」とくぎを刺し、中国への働きかけを強めた。

 リスク

 会談の合意事項には、人的交流の活性化や感染症対策、少子高齢化への対応など「実務的な協力」を並べた。3カ国が安保や貿易分野で利害対立に陥りやすいことの裏返しと言える。日本外務省幹部は「互いにぶつからない分野で協力の『上澄み』をすくい上げるしかない」と説く。
 3カ国には相互不信の芽が多くあり、首脳のシャトル外交が活発化する日韓ですら、韓国側で元徴用工問題の解決策に不満が出るなど関係が逆戻りするリスクを抱える。
 日中韓外交筋は「3首脳が協力で合意しても、しばらくしたら3カ国の間でけんかが始まる。そういった歴史の繰り返しだ」と嘆いた。(ソウル共同=鳥成慎太郎、福田公則、渡辺夏目)