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武力攻撃事態を想定か 「再考の府」参院は廃案検討を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 地方自治体に対する国の「指示権」を拡大する地方自治法改正案が衆院本会議で可決され、参院に送付された。政府は今国会成立を目指すが、改正案は分権改革の流れに逆行し、憲法がうたう「地方自治の本旨」を損なう恐れが強い。武力攻撃事態などを想定した集権化が狙いだとの指摘や、自民党が憲法改正で目指す緊急事態条項の先取りだとの見方もある。
 「再考の府」「良識の府」の参院には、自治体や市民の懸念に耳を傾け、廃案を検討するよう求めたい。
 現行法では国は、災害対策基本法など個別の法令に根拠規定がなければ原則、自治体に対し、従う義務を伴う「指示」をすることができない。2000年施行の地方分権一括法が国と自治体の関係を上下・主従から対等・協力に変えた成果だ。
 だが新型コロナウイルス対策で生じた混乱を受け、地方制度調査会が昨年12月、指示権拡大を盛り込んだ答申を岸田文雄首相に提出。これを受け改正案が3月、閣議決定された。
 同案は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」の発生や恐れがある場合、閣議決定すれば担当閣僚が国民の生命や財産を的確・迅速に保護するための措置を、自治体に指示できるようにする。
 松本剛明総務相は「今後も個別法が想定していない事態が生じうる」と改正の必要性を強調。「指示権は必要最小限の範囲で行使される」とするが、条文や政府答弁からはどんな事態で何を指示するか輪郭すら不明だ。
 栃木県知事など首長経験もある立憲民主党の福田昭夫衆院議員は「武力攻撃事態や存立危機事態以外に(指示権行使の場面は)考えられない」とみる。現在の有事法制では、武力攻撃を受けた事態でも、国は自治体に避難、救援、港湾利用など限られた範囲の指示しかできないためだ。政府は「考えていない」と否定するが、それを証明するものはない。
 有事にまでは至っていない「グレーゾーン事態」での指示権発動を狙っているとの見方もある。
 永山茂樹・東海大教授は「法律レベルで『戦争する国づくり』のための集権化が進められている」と指摘。福田氏も「今回の改正で、いつでも戦争できる体制が出来上る」と警告している。憲法3原則の平和主義が脅かされているとも言えよう。
 さらに国会軽視・役割縮小の側面も無視できない。改正後は、指示の規定を設ける個別法改正の必要が生じても、手間暇のかかる国会審議や批判を回避するため、時の政権が法改正を避けることも起こり得るためだ。
 南西諸島へのミサイル配備やシェルター建設をはじめ各種有事を想定した施設整備や防衛費の大幅増が着々と進む中、今回の改正案が何を意味するのか、国民一人一人も自らに問いかける必要がある。
 (共同通信記者 阿部茂)