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戦前回帰の法案、廃案を 識者談話 幸田雅治・神奈川大教授


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 改正案は、大災害や感染症による危機の際、個別の法律が想定する以上のことが起きれば、法律に規定がなくても国が地方自治体に指示できるようにするものだが、大災害も感染症も個別法で既に指示権があり、法律の制定根拠となる立法事実が全く明らかにならないまま衆院を通過してしまった。国と地方の関係を対等・協力から上下・主従に根本的に変えてしまう重大な改正にもかかわらず、国会での審議は非常に短かった。参院で政府の姿勢を問いただして廃案にするべきだ。
 2000年に地方分権一括法が施行される以前にも、地方自治法上、自治体の自主性を尊重する団体事務については、自治体を法的に拘束する「指示」はなかった。今回の改正案は、地方分権改革に逆行するどころか、憲法や地方自治法が制定される以前の戦前に回帰すると言っても過言ではない。
 災害や感染症の流行が発生した時、現場の情報を把握し最も適切な対処ができるのは国ではなく自治体だ。国と自治体が連携、協力することで的確な対処が可能となるのであって、国が誤った指示を出した場合でも従うよう強制されれば、国民を危険にさらすことにつながりかねない。
 沖縄県は、辺野古の基地建設で公有水面埋立法の法定受託事務を巡って政府と対立し、代執行をされた。水平的な権力分立(三権分立)が弱い日本では、垂直的権力分立(地方分権)が民主主義に果たす役割は大きい。改正案が成立すれば、選挙で選ばれた首長が国の考えと異なる意見を表明することが抑制され、国と地方の関係が上下・主従に根本的に変わり、地方自治だけでなく民主主義そのものも脅かされる。 (地方自治論)