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国介入「対等」揺るがす 急ぐ政権、混乱事例も 地方自治法改正案


国介入「対等」揺るがす 急ぐ政権、混乱事例も 地方自治法改正案 国の指示権行使のイメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 地方自治法改正案が衆院を通過した。非常時なら国が指示権を行使し、自治体の仕事に介入できるようにする内容。岸田政権はコロナ禍のような事態や大災害に備え、見直しを急ぐ。しかし「対等・協力」を原則とする国と地方の関係を揺るがしかねず、自治体からは懸念の声が続出。国の判断が混乱を招いた事例もあり、識者は「弊害が大きい」と警鐘を鳴らす。 (1面に関連)
 「指示さえできれば(コロナ禍の問題を)解決できたというのは、責任を自治体に押し付け、厚顔無恥も甚だしい」。30日の衆院本会議。採決に先立ち、立憲民主党の吉川元氏が反対討論した。
 地方からも声が上がる。衆参両院の事務局によると、改正案への意見書は今月27日までに3県と14市町村の議会から受理。北海道津別町議会は「(自治体の責任で行う)自治事務に対する国の不当な介入を誘発する恐れがある」と反対する意見書を3月に採択した。
 金沢市議会は「改正案の内容は漠然としたもので(指示の)適用範囲が広範にわたる」と懸念。東京都三鷹市議会は「地方自治の確立とは相いれない」。大阪府泉大津市議会も「自治体への国の関与は『必要最小限』と定めた地方自治法と齟齬(そご)が生じる」と訴えた。
 地方自治は憲法で保障され、自治体の裁量と責任で地域を運営し「国は自治体の自主、自立性に配慮しなければならない」(地方自治法)。1990年代以降の地方分権改革では、国の仕事を自治体に下請けさせる「機関委任事務」を廃止、国と自治体の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと改められた。
 ただ2020年2月に発生した大型クルーズ船のコロナ集団感染では、自治体の役割だった患者の受け入れ調整が難航。こうしたコロナ禍の反省を根拠に、首相の諮問機関は昨年12月、自治体への指示権拡大を求める答申を決定。政府は2カ月余りで地方自治法改正案を閣議決定した。
 政府関係者は、想定外の事態に備えるためには指示権の拡大が必要と説明。一方で「強い権限で戦後の地方自治、地方分権の流れを大きく変えることになる」と漏らす。
 もっとも国の介入で円滑に対応が進むとは限らない。
 16年4月の熊本地震では、最初に最大震度7を記録した後、多くの人が駐車場など屋外へ避難。政府は屋内移動を求めたが、自治体は余震多発を理由に応じず、直後に再び最大震度7の地震が発生。同県益城町では、総合体育館の天井パネルや照明がほとんど落下し「避難スペースとして開放しなかったことが人的被害を未然に防いだ」(町の報告書)。
 コロナ禍でも、唐突な一斉休校など、国の要請が混乱を招いたケースがある。PCR検査を巡っては国が「37・5度以上の発熱が4日以上」を目安の一つとして通知し、これに当たらず検査を受けないで急に重症化する例も目立った。
 礒崎初仁中央大教授(地方自治論)は「国は組織が縦割りで現場から遠く、危機管理に向かない構造。自治体は首長に権限と情報が集まり現場と近いため役割を果たせる」と指摘。「指示権を行使して地域を黙らせるようなことはすべきではない」として、重大な局面ほど国と自治体との合意形成の努力が必要だとしている。