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焦る首相 公・維主張「丸のみ」 自民総裁選へ火種  規正法改正


焦る首相 公・維主張「丸のみ」 自民総裁選へ火種  規正法改正 会談前に、公明党の山口代表(左)と握手する岸田首相=31日午前、首相官邸
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 裏金事件を受けた政治資金規正法改正で、岸田文雄首相が大幅譲歩に追い込まれた。当初は各党の修正要求に耳を貸さなかったが、今国会中の法改正実現が危ういと見るや、焦りを募らせ態度を一変。公明党と日本維新の会の主張をほぼ「丸のみ」した。自民党内の調整が生煮えのまま下した政治決断は9月の総裁選へ火種を残す。舞台裏を検証した。 (1面に関連)

迷い

 「自公、力を合わせて今後もお願いします」。31日午前、官邸。首相は公明の山口那津男代表に再修正案を示し、協力を要請した。約30分後、記者団の前に現れた山口氏は「首相が英断を示した」と満足げだった。
 異例となる単独での改正案提出に至った自民だが、幹部は「最後は公明も乗ってくる」と楽観していた。隔たりのあった政治資金パーティー券購入者名の公開基準額も「自民案の10万円超で構わない」との感触を公明側から得ており、「法施行3年後の見直し規定」を盛り込めば乗り切れると踏んでいた。
 ところが今週に入り、「自民案に賛成」との報道が相次ぐと公明党本部に苦情が殺到。野党から「同じ穴のむじなに戻った」と一斉に批判の矛先を向けられ、山口氏は「修正案に賛同できない」と態度を硬化させた。
 公明が固執したのは公開基準額「5万円超」への引き下げだ。幹部間協議ではらちが明かず、首相に委ねられた。優先すべきは公明との連立か。それとも自民の論理か。首相は30日夜、迷った末「事件を起こしたのは自民だ。譲るしかない」との判断に傾いた。

保険

 自公関係がもつれていた今週半ば、維新幹部に首相サイドから「政策活動費は維新案を全て受け入れるから話がしたい」と連絡が入った。
 首相は元々、周辺に「公明が乗りやすくなるから維新とも交渉してくれ」と指示していた。自民は参院で単独過半数を持っておらず、公明の賛意を得られない場合の保険になるとの計算も働いた。
 着目したのは、維新の藤田文武幹事長による22日のラジオ番組での発言だ。(1)調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開(2)政策活動費の監査義務化(3)企業・団体献金禁止―を挙げ「三つのうち二つ以上をのむなら称賛したい」と言及していた。
 企業・団体献金禁止を除けば容認できる―。首相の最側近として知られる木原誠二幹事長代理が30日午後、藤田氏に接触し、首相の考えを伝達。合意文書作成に向けた水面下の調整が始まった。
 31日、山口氏との会談に続いて維新の馬場伸幸代表との会談に臨んだ首相。繰り返し明言した法改正に自ら道筋を付け、高揚感に浸っていいはずなのに、その顔に笑みはなく疲労感だけがにじんでいた。

吉か凶か

 裏金事件を契機とした派閥解散表明や、衆院政治倫理審査会への出席など、首相はこれまでも与野党の意表を突き、今回も結果的にトップダウンで決めた。自民内では早速、資金が細ることへの懸念が噴出する。
 中堅議員は「資金の蛇口を閉めて、秘書の給料や事務所運営費はどうするのか」と恨み節を吐く。後ろ盾である麻生太郎副総裁や、茂木敏充幹事長は「首相が勝手に決めた」と周囲に明かし、不快感を隠さない。
 「今国会で法改正を確実に実現しなければ政治への信頼回復はできない」。首相は31日夜、官邸で記者団に語った。裏金事件に区切りを付け、見据えるのは総裁再選。自民重鎮は「今回の決断が、吉と出るか凶と出るかは分からないけどな」とつぶやいた。