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「戦略」描けぬ首相 統治不全、強まる不満


「戦略」描けぬ首相 統治不全、強まる不満 自民党公認、推薦候補が敗れた最近の選挙
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相が衆院解散戦略を描けない。裏金事件を受けた政治資金規正法改正を今国会で実現し、9月の総裁再選に向け一区切りとしたいところだが、採決のシナリオが狂い統治不全を露呈した。各種選挙でも自民公認や推薦候補の敗北が続く。
 党内では「選挙の顔にならない」として、首相に対する不満は強まるばかりだ。

深まる溝

 「今は政治改革をはじめ、先送りできない課題に専念している」。4日朝、官邸入りした首相は記者団にそう強調した。「今国会の解散見送り」を伝える一部報道の事実関係を問われ、従来通りの発言を繰り返したものの、首相を取り巻く環境は厳しさを増す。
 元々は6月の定額減税で世論を喚起し、23日の会期末に合わせて解散・総選挙に踏み切り9月の総裁選を無風で切り抜ける―というのが最善策とみられていた。しかし規正法改正の修正協議に手間取り、国会審議で手を焼き、支持率の低迷も出口が見えない。
 首相は当初、自民がまとめた案を「実効性のある再発防止策」と強調したが、野党だけでなく連立相手の公明党からも「透明化が不十分だ」と指摘される。公明や日本維新の会の賛成を取り付けるため独断で大幅譲歩を重ね、後ろ盾の麻生太郎副総裁や、茂木敏充幹事長との溝が深まった。
 首相が率いた岸田派所属の平井卓也広報本部長ですら2日のフジテレビ番組で「不満は出て当然だ」と突き放した。

異例の事態

 採決日程でも混乱が起きた。自民と立憲民主党は3日午前、衆院政治改革特別委員会で首相出席の質疑を4日に実施し、採決することに合意した。ところがその後、政策活動費の扱いを巡り維新の修正要求に応じる方針を決めると、採決のシナリオが崩れ始める。
 立民が「修正するなら趣旨説明が必要だ」と主張するのに対し、自民は修正前の法案を4日に維新の賛成抜きで衆院通過させた上で、参院で修正し、維新を加えて可決する段取りで維新から内諾を得ていた。
 これに茂木氏が異を唱える。3日夜、維新や自民幹部に「維新が衆院では反対し、参院で賛成するなんて筋が通らない」と伝達。採決日程は仕切り直しとなった。
 「きょうの日程は白紙にさせてほしい」。自民の浜田靖一国対委員長は4日、国会内で立民の安住淳国対委員長に頭を下げた。首相出席の審議や合意した採決日程が一夜で覆るという異例の事態に安住氏は「ひどい迷走だ。ガバナンスの問題もある」と苦言を呈した。

負け癖

 党の結束が揺らぐ中、都市部や地方の選挙で与党系候補が相次ぎ敗北し、首相の解散戦略はさらに不透明感を増す。
 今年4月21日の目黒区長選(東京)、5月の小田原市長選(神奈川)では推薦候補が敗北。今月2日の港区長選(東京)でも推薦した現職が新人に敗れた。神奈川県連からは「次期衆院選で最悪の結果になる恐れがある」との悲鳴が上がる。
 自民重鎮は「負け癖が付いてしまった。今解散できるなんて考えている人はもはやいないはずだ」と危機感を隠さない。
 とりわけ自民との共倒れを避けたい公明の山口那津男代表は4日、解散時期について記者団から見解を問われると、7月の東京都知事選と都議補欠選挙を挙げ「国会の取り組みに対する有権者の意思が表れるバロメーターだ」と指摘。早期解散に踏み切らないようくぎを刺した。