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若い女性の地元定着図れ 天野馨南子 ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 2023年のわが国の合計特殊出生率(以下、出生率)は1・20と過去最低を更新した。この指標は「夫婦が持つ子どもの平均数」ではないことに留意してほしい。「妻が平均1・20人しか産まないんじゃ、少子化が進むに決まっている」と考えるのは誤っている。
 正しくは「未婚か既婚かを問わず、結婚や出産の動向から計算して、日本の女性は生涯に1人当たり1・20人の子どもを産むだろう」と捉えるべきだ。計算の分母には15~49歳の未婚女性と既婚女性の双方が含まれる。
 日本の「妻」は子どもをほぼ2人産んでおり、この構造は半世紀前から変わっていない。出生の減少は、既婚女性の出産動向ではなく、婚姻数の減少と相関して発生しているのだ。だから、筆者は以前から「カップル成立なくして出生なし」として、少子化の原因は未婚化だと指摘してきた。
 だが、国は既婚者応援となる子育て支援などの「妻責任論」をベースに政策を動かしてきた。少子化対策が奏功し
てこなかったのは当然だろう。
 ただ、国全体での少子化の原因が未婚化にあるとしても、忘れてはならない点がある。ある地域から別の地域への転出数が転入数を上回る現象を「社会減」と言うが、地方では若い女性が就職を契機として大量に大都市圏へ転出することで社会減が生じており、このため婚姻数を増やすにも限界がある点だ。
 若い未婚女性の社会減が大きいエリアでは「出生率が引き上げられる」ことが知られていない。どういうことか。未婚女性の転出による社会減が進むと、結果として地元に残った女性の既婚割合は「自動的に上昇」する。すると未婚化が「解消」するため、出生率は上昇することになる。
 乱暴な言い方をすれば、手軽に地元の出生率を上げたい
なら、未婚女性を地元から追放すればいい。ただし、出生率は高くなっても生まれる赤ちゃ
んの数が増えるわけではない。自治体においては「出生数」減少の度合いを見ないと少子化の進行を測定できない。
 限界集落や中山間地域などでは若い未婚女性が社会減することで、既婚割合が上がり高出生率のエリアも少なくない。「自然豊か」「3世代同居多し」「持ち家多し」「専業主婦多し」などと、高い出生率でも実は出生数が減っているエリアの特徴を礼賛することがないよう警告したい。出生率を誤読した政策展開は地方を滅ぼしかねない。
 繰り返すが、エリア別の出生率は、若い未婚女性が仕事でいなくなるエリアほど高くなりがちな指標であることに注意が必要だ。出生率の高低は未婚女性の地域間移動に左右されるので、エリアごとの少子化測定の指標に使ってはならない。
 23年の社会減は40道府県に及び、うち31道府県で男性よりも女性の社会減が多く、群馬、沖縄は女性のみを減らした。北海道、茨城、鹿児島は女性の社会減が男性の約3倍、山梨は約12倍だ。
 地方自治体は女性定着型の人口政策に転換すべきだ。お手軽に男性労働力を増やす政策では未来はない。地元に若い女性が就職で定着してくれるかどうかが、地方の人口の未来を握る。
 × ×  あまの・かなこ 1971年東京都生まれ。東京大卒。95年日本生命入社、2020年から現職。専門は人口動態に関する諸課題など。近著に「まちがいだらけの少子化対策」。