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入居者の今後に不安 行政の責任問う声も   


入居者の今後に不安 行政の責任問う声も   
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「ふわふわ」という名称で障害者向けグループホーム(GH)を各地で急速に増やしてきた大手運営会社「恵」(東京)。愛知県などの事業所指定取り消しを受けた連座制の適用により、同社は障害福祉業界から事実上の退場処分となる。入居者の今後に不安を抱く家族、会社に不信感を募らす社員ら。悪質さが指摘される同社の事業拡大を許した行政にも責任を問う声が上がっている。

少ない受け皿

 「娘にとっては今のホームが居場所。今後、娘の希望がかなう生活ができたらいいのだが…」。茨城県内にある同社のGHで20代の娘が暮らす父親(70)はそう話す。
 入居先のスタッフの対応は悪くないと感じている。「なるようにしかならない」と事態の推移を見守る。
 同社のGHは障害が重い人を対象にしたタイプが中心。受け皿が少ないだけに、愛知県内の福祉団体には「『預け先がなくなったら』と思うと、不安で仕方ない」といった家族からの相談が相次いで寄せられている。
 入居者の今後については、2通りが考えられる。(1)別のGHや自宅などに移る(2)恵がGHを他の事業者に売却し、希望する人はそのまま暮らす。
 障害福祉ではなく介護保険では、大手の会社に連座制が適用された例がある。高齢者への訪問介護を全国で約1600カ所運営していた「コムスン」のケース(2007年)だ。このときは一部地域を除き、大手など15の事業者に譲渡された。

姿見せない社長

 ただ、指定取り消し処分を直接受けないGHは、6年間の指定期間満了まで恵が運営できる。開設時期によって異なるが、長い場合は5年ほど先だ。事業者には、利用者が続けてサービスを受けられるよう調整する義務も課せられている。
 そのため「当面は恵に運営させ、その間に入居者の居場所を決めたい」と考えている自治体も多い。だが、複数の現・元社員は「経営陣は反省していない」「責任ある対応をするとは思えない」と不信感を示す。
 同社はこれまで報道機関の取材に対し担当者が電話で答えるだけ。中出了輔社長(34)は一度も公の場に姿を見せていない。社員らは「報酬の不正請求は経営陣の指示だった」と証言しているが、愛知県内の自治体によると、役員は「システムエラーが原因」と説明。ある社員は「あきれて物が言えない」。
 一部の自治体からは「建物はそのままで、別の事業者に譲渡できればベスト」「恵がつぶれても構わないが、事業譲渡が済んだ後にしてほしい」といった本音も漏れる。

疑問視

 入居者家族や社員らからは「なぜ行政は歯止めをかけられなかったのか」「自治体の監査が役に立っていない」といった声も相次ぐ。ある社員は「遅くとも2年前には行政に不正や虐待の通報が行っていたはず。ちゃんと受け止めてくれていたら、ここまで問題は大きくならなかったのではないか」と話した。
 障害者のGHを巡っては、恵以外でも質の低い事業者の存在が指摘されている。対策として厚生労働省は外部の評価の目を入れようと、家族や地域住民らでつくる会議の開催を来年度から全てのGHに義務付ける。
 ただ、似た仕組みは既にあり、評価結果に強制力がないため、実効性が既に疑問視されている。事業参入の要件厳格化や抜き打ち検査などを求める声が上がっている。