有料

増す奇抜さ どう向き合う 都知事選 異例の政見放送


増す奇抜さ どう向き合う 都知事選 異例の政見放送 東京都知事選のポスターが張られた掲示板(上)、東京・渋谷のNHK放送センター(左下)、NHK総合で放送された政見放送の画面(右下)のコラージュ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 顔を白塗りにして高笑いを続けたり、着ていたシャツを脱いでセクシーさをアピールしたり、判で押したように一定の主張を読み上げたり…。7月7日投開票の東京都知事選の政見放送が、放送時間の長さも内容も異例の様相を呈している。
 公約とは直接関係ないような発言も多く、「宣伝と化した目的外使用だ」と指摘する識者も。奇抜さを増す政見放送に、どう向き合えばよいのか。
 政見放送を規定する公職選挙法では、候補者の政治に関する意見を「そのまま放送しなければならない」と義務付ける一方、善良な風俗を害する内容や宣伝など「品位を損なう言動をしてはならない」と定める。
 今回の都知事選には過去最多の56人が立候補し、政見放送の放送時間はNHK総合だけで計約11時間。うち19人は政治団体「NHKから国民を守る党」から立候補し、多くの候補者がほぼ同じ文言の主張を展開、党首のユーチューブチャンネルの視聴を呼びかける。
 「個人の来歴や公約をほぼ語らず、人海戦術で党の主張を発信する。1人の知事を選ぶ選挙の政見放送において、公選法の立法趣旨からは逸脱している」。高千穂大の五野井郁夫教授(政治学)はこうした政見放送を目的外使用と批判。国民の良識に委ねる公選法の抜け穴を逆手に取るやり方を「民主主義に対する裏切りだ」と非難する。
 近年の政見放送は、ユーチューバーのような人たちが耳目を集める舞台にもなっている。「公共の電波で知名度を上げ、動画の再生回数を伸ばす。政見放送を個人の営利目的に使う手法を公選法は想定しておらず、制度疲労は否めない」
 コラムニストの辛酸なめ子さんは「カオスと化している」と見る。本来は投票の重要な判断材料となる政見放送で、知名度を上げようとアピールに終始する映像が目立ち、「見たら負け」と有権者に思わせてしまうような状況が生まれていると指摘。「見ていていたたまれなくなるものが多く、変に注目すれば彼らの思うつぼ。視聴する価値があるかどうか、冷静に判断するしかない」
 一方、長く選挙取材を続けるフリーライターの畠山理仁さんは「世の中に多様な人がいることを伝えるのも選挙の大事な役割。政見放送はできるだけ自由にやれるのが望ましい」と話す。
 「時に怒りを感じる候補者もいるが、それも民主主義のコスト」。ふさわしくないと思う候補者には票を投じなければいいわけで「有権者がしっかりしていれば、恐れることはないのでは」。