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後手の政府、補償急務


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 障害や病を「不良」と決めつけた旧法について最高裁は、立法当時から違憲だったと異例の判断を示した。国が身体拘束やだました上での手術を許容するなど国策として推進したことにも触れ、国側が損害賠償請求権が消える「除斥期間」を主張することは「権利の乱用」とまで言い切った。

放置
 「1996年に旧法の差別規定が削除された後、速やかな補償が期待されたのに長期間『手術は適法』との立場をとり続けてきた」。最高裁が言及するほど、政府は約2万5千人が被害を受けた「負の歴史」を放置し続けた。
 2018年に国家賠償請求訴訟が起こされ問題が明るみに出ると、動いたのは与野党の国会議員だった。被害者に一律320万円を支払う一時金支給法が、翌19年に議員立法で成立。だが政府側は、国に賠償を命じる判決が相次ぐと上告し「最高裁の判断を受けて、議連と考えるしかない」(政府関係者)との姿勢だった。
 最高裁判決の対象となった原告の賠償額は1人最高1650万円で、一時金の額とは大きな開きがある。原告側は、一時金ではなく、全ての被害者への十分な補償を求めているが、政府内では「一時金はあくまで見舞金」との位置付けだった。
 判決を受け、岸田文雄首相は月内にも被害者と面会し「反省とおわび」を伝える意向を示した。被害者らへの補償にも言及し、膠着(こうちゃく)した状況がようやく動き出す。

根絶
 旧法が母体保護法に改正された後も、相模原障害者施設殺傷事件や、北海道の施設での不妊処置など問題は後を絶たない。
 長年、旧法問題を追及する立命館大生存学研究所の利光恵子客員研究員は「差別を合法化した旧法があったからこそ、形を変えて優生思想が続いてしまった」と考える。
 障害や病がある人を国が「劣等者」と決めつけ、各地で手術を推進したことで「障害者が子育てすることは不幸」という意識が隅々まで張り巡らされたと指摘。障害の有無にかかわらず、共に生きる環境が整備されれば「触れ合う機会が多くなり、友人や知人になる。まずそこから」と話す。
 国会は昨年6月に旧法に関する調査報告書をまとめたが、国や国会の責任の所在については明確にしていない。差別根絶に向け、全国被害弁護団の新里宏二共同代表は「なぜこういうことが起きたのかしっかり検証することが、次の被害を出さない上で極めて大切だ」と強調した。