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混乱の選挙、かすむ論戦 56人立候補 妨害警戒、掲示板問題も


混乱の選挙、かすむ論戦 56人立候補 妨害警戒、掲示板問題も JR蒲田駅近くの掲示板に張られた、女の子や花の絵と共にQRコードが掲載されたポスター(左右と下)=4日
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 小池百合子氏(71)が3選を果たした東京都知事選は、告示日から荒れ模様だった。立候補者は56人に及び、ポスター掲示板の枠が不足。その掲示板には同じデザインのポスターが並んだ。4月の衆院補欠選挙で起きた妨害事件の影響で街頭演説を控えるケースも。候補者が明確な争点を示せない中、民主主義をあざ笑うような出来事の連続に政策論争はかすんだ。
 JR蒲田駅近くの掲示板に大量に張られたポスターには、女の子や花の絵と共にQRコードが掲載されていた。ここから連絡の取れたアルバイトの男性(69)が4日、取材に応じた。自身は候補者ではないとし、「注目が集まるよう、孫の絵を使わせてもらった」と掲示を認めた。悪びれる様子はなく「ユーチューブの登録者数を増やしたかった。またやりたい」と話す。
 掲示板のスペースの半分を同じポスターが埋める様子は交流サイト(SNS)で拡散した。政治団体「NHKから国民を守る党」が展開した、団体への寄付者に掲示板の枠を提供する活動によるもの。団体に関係する24人が立候補して掲示板を「ジャック」した。風俗店を宣伝するポスターもあり、団体側は警視庁から警告を受けた。
 混乱の兆しは6月20日の告示前からあった。候補者数が50人を超える見通しだったにもかかわらず、都選管の準備した掲示板の枠は48人分だけ。49人目以降は、クリアファイルにポスターを入れて掲示板の外枠に張る形で対応した。ある候補者は「平等に扱われていない」として都などを提訴した。
 衆院補選で妨害を繰り返した「つばさの党」の存在も論戦に水を差した。小池氏の陣営は警戒感から告示日の街頭演説を見送った。2年前の安倍晋三元首相銃撃事件以降、聴衆との距離感には課題が残ったまま。陣営関係者は「有権者との『タッチ』を企画しても警視庁に止められることがあった」と明かす。
 選挙戦では、各候補の政策は終始存在感が薄かった。政治問題に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫さんは、6月末にあった米大統領選の候補者討論会を引き合いに「罵声を浴びせ合いながらも政策論争をしていた。都知事選は討論会が少なく、主張の違いが分からなかった」と苦言を呈する。選挙制度の問題点に触れ「参加する人のモラルが欠けている。早急に公選法の必要な部分は改正すべきだ」と警鐘を鳴らした。