有料

流血構わず強さ演出 したたかに選挙へ利用   


流血構わず強さ演出 したたかに選挙へ利用    トランプ氏暗殺未遂現場(配置画像はⓒGoogle)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 トランプ前米大統領(78)が13日、選挙演説中に銃撃された。負傷した耳から血を流しながら拳を突き上げ、支持者に強さをアピールし、自身を暗殺しようとする凶行も大統領選での勝利に向けて利用するしたたかさをみせた。高齢不安で失速するバイデン大統領(81)を尻目に、党候補を正式指名する共和党大会に予定通り出席してタフな指導者像を示し、挙党態勢の構築を狙う。

 炎天下の選挙集会場に、突如複数の銃声が鳴り響いた。壇上に駆け上がった大統領警護隊(シークレットサービス)要員が必死の形相で「移動してください」とせかす。だがトランプ氏は「靴を履かせてくれ」と4度も繰り返し、動こうとしない。身の危険よりも、靴も履かずに逃げる様子をさらすのを嫌がるかのようだった。
 自身を守るために取り囲んだ警護隊員らを押しのけるようにして、支持者に向かって血まみれの顔をさらしたトランプ氏。拳を突き上げ「ファイト(戦え)」と3回叫んだ。車に乗り込む直前もガッツポーズを決め、強さの演出に余念がなかった。

余裕

 6月の討論会で痛恨の失態を犯したバイデン氏の高齢不安が「最大の関心事」(米メディア)となっている最中の暗殺未遂事件。政治サイトのリアル・クリア・ポリティクスによると、世論調査の支持率平均はトランプ氏が47・4%で、バイデン氏の44・5%を上回るが、その差はわずかだ。
 共和党のレーガン大統領は1981年に銃撃された際、重傷を負いながらも担当した医師に向かって「共和党員だと良いのだが」と冗談を飛ばす余裕を見せ、支持率向上につなげた。トランプ氏も今回、理想と仰ぐ先輩の成功例に倣おうとした可能性もある。
 共和党は、銃撃を防げなかったのは警備体制の「失態」だとして政権への攻撃材料にする構えだ。事件直後にX(旧ツイッター)でトランプ氏支持を公言した実業家のイーロン・マスク氏も、警備責任者は「辞任すべきだ」と訴えた。

警戒

 15~18日には共和党大会が中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催。4年ぶりの政権奪還を狙うトランプ氏が正式に候補指名される節目となる。会場周辺の道路には既に鉄柵やブロックが設置されるなど厳重な警備体制が敷かれ、物々しい雰囲気となった。南部フロリダ州から現地入りしたトム・ゲイテンさん(58)は「トランプ氏は屈しない」と語り、予定通り最終日に指名受諾演説を行うとみている。
 普段は非難の応酬を繰り広げるバイデン氏も、トランプ氏が大事に至らずうれしく思うとし「彼のために祈る」と異例の声明を発表した。報道は暗殺未遂事件一色となり、自身の高齢不安からは一時的に関心がそれているが、党内の撤退圧力はやまず逆風が続く。陣営はトランプ氏が英雄化されて共和党の結束が強まるのを警戒するが、効果的な対抗策は見えない。
 トランプ氏は2021年の議会襲撃事件など4事件で起訴されたが、連邦最高裁に公務上の刑事責任の免責を認められ勢いづく。暗殺の試みもくぐり抜けたトランプ氏に、波乱続きの選挙戦でさらに追い風が吹いた。(ミルウォーキー共同)