【チャイナ網路】「バナナ・パラダイス」の町


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 台北駅前に昨年末オープンした「台湾故事館」を訪れた。近年のレトロブームで、現れては消えるテーマパーク型飲食店の中でも、台中で大成功を収めたバナナ新楽園社の出店と聞き、名画「バナナ・パラダイス」を思い出した。
 “バナナ”という魅惑の果実への憧(あこが)れを胸に、訳も分からぬまま戦乱の大陸から台湾に渡った2人の青年。1人はスパイと誤認され、拷問を受けて正気を失い、1人は別人として生きる悲劇を余儀なくされる。生涯寄り添って生きた2人の時代が、1500坪の空間に広がっていた。
 「故事館」が再現した1965年とは、バナナ農家の収入が公務員を超え、まさに“パラダイス”だった時代だ。政治的な暗黒の一方で、まさか4年後、青果合作社による汚職事件で、パラダイスが崩壊するなど想像だにしなかった、戦後最初の復興期でもある。
 外省人に対する不信を刻んだ228事件という悲劇もあったが、個人的には外省人にも温かかったと、映画が描いたあのころの台湾。2人の主人公の泣き笑いが聞こえてきそうな町並みは、日本人にもどこか懐かしい。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)