【チャイナ網路】流出する頭脳


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 台湾大学の巫和懋と朱家祥、政治大学の霍徳明という、“世界レベル”の経済学者が先月、そろって北京大学に赴任した。これまでも台湾の学者が大陸で集中講義などを行う例は多いが、正式に職を辞し、専任として赴任したのはわずか9人。一度に3人を失った台湾の衝撃は大きい。
 メディアが指摘するのは、教授で月額最高35万円という台湾の給与の低さだ。大陸も平均なら年収100万円程度だが、海外から招聘(しょうへい)した一流の学者には、通常の30倍、米トップレベルの待遇も可能なシステム。実に台湾の5倍に相当する。
 自らの研究計画のために豪華な研究室が建ち、潤沢な研究資金を与えられるという条件は、確かに魅力的だ。しかし、氏らはかつて台湾の大学の三顧の礼に感じ、厚遇の米大学を辞して赴任した人物。金だけで動くとは思えない。
 思想信条の自由が完全に認められたわけでもない大陸で、批判性の高い社会科学の研究に従事すること自体リスクだとする声もある。が、それでも彼らを駆り立てるのは、中国人が再び世界経済のトップに立つという“夢”への参画ではないだろうか。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)