【チャイナ網路】無米薬


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 低迷が続く台湾映画界だが、記録映画ではヒットが続いている。中でも昨年公開された「無米楽」は、数々の映画賞を独占。記録映画としては異例の全国ロードショーを果たし、わずか4日で50万人を動員した話題作だ。
 描くのは、稲作農家の1年だ。気楽なようでいて、台風、虫害、下がる米価と苦労ばかりが待ち受ける農家の現実。老齢化も深刻な農村に「未来はない」と老農は言いきるが、表情は不思議なほど明るい。そして「無米楽」(なんくるないさぁ)を繰り返すのだ。
 土地と作物を慈しみ、天の試練に甘んじて、信心と正直を信条に生きる老農の諦観(ていかん)。声高に叫ばぬからこそ、政府の無策がもたらした罪が胸に刺さる。エンドロールで流れた後日談は、WTO加盟による、政府の強制休耕の通告だった。
 作品では、悲しい美談に終わるかに見えた村に、実は今年、朗報が届いている。同地米を「夢美人」のブランド名で、日本に輸出することが決まったのだ。買い取り価格は従来の数倍。これでまた田んぼに帰れる。神様もたまには気の利いたことをするものだ。
(渡辺ゆき子、本紙嘱託・沖縄大学助教授)