【チャイナ網路】消えゆく米軍の影


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 台湾にも戦後、数多くの米軍住宅が存在した。中でも米情報活動の拠点「西方公司」の宿舎は、当時の姿をとどめる数少ない例だ。その一つ、清華大学「北院」が7月、民間への払い下げを理由に撤去された。
 「西方公司」とは、朝鮮戦争に対する中国の介入けん制をねらい、米中央情報局が、台湾軍を使って行った対中ゲリラ作戦と情報活動の拠点だ。朝鮮戦争終結により解散するが、その後、米海軍の「顧問団」がその任を引き継いでいる。
 1953年から67年にかけ、情報活動の主役を担ったのが、空軍第34中隊と第35中隊だった。対潜哨戒機P2Vを超低空で飛ばし、高高度偵察機U2で撮影するという危険な任務。838回の出動で148人が殉職した。昨年、元米軍顧問がその実態を本にしているが、台湾側の資料はいまだ機密ファイルの中だ。
 米軍の完全撤退後、施設の多くが国に移管された。構造改革で進む民営化と資産の売却。安易な都市開発で歴史を風化させてはならないと、市民運動が起こっている。北院宿舎も1棟が「西方公司」跡地に移築され、資料館となることが決まった。
(渡辺ゆき子、本紙嘱託・沖縄大学助教授)