【チャイナ網路】「人間」という良識


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 1985年、台湾の戦後史に名を留める雑誌が創刊された。「人間」だ。著名作家でもある陳映真は創刊の辞で、こう宣言している。「物欲ばかりに満ちたこの地にも、いまだ愛と希望が存在する余地があると、命を賭けて信じたい」。誌名は、やがて良識の代名詞となっていく。
 忘れ去られた戦争被害者、蔑視(べっし)の対象でしかなかった先住民。身体障害者や原発の被爆者など、社会的弱者に報道の目が向けられることは、今でこそ珍しくない。が、当時はタブーに満ちた戒厳令下だ。その勇気ある報道姿勢が多くの読者の胸を打ち、眠りかけた良識を呼び醒(さ)ました。
 報道写真家ユージン・スミスに触発されたという強烈なコントラストのモノクロ写真。多くを写真に語らせるのも、同誌独特のスタイルだった。フォトジャーナリズムを台湾に根付かせたのも同誌だという。
 残念ながら経営不振のため4年で廃刊となったが、いまだ多くの人が深い敬意とともに同誌を思い起こす。自分たちは決してドンキホーテではないとペンで戦い続けた記者たちも、第一線で活躍し続けている。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)