【チャイナ網路】“亀毛”な酷吏の死


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 “亀毛”(ぐーもー)とは細かいことにこだわり過ぎる頑固者のことだ。北京語の辞書にも、福建方言にもない言葉だが、台湾人の胸にはぐさりと刺さる。その“亀毛”で血も涙もないと酷評され続けた前法務大臣が先日、ひっそりと息を引き取った。陳定南、享年63歳。
 名門・台湾大学を卒業し、会社勤務を経て、貿易会社を立ち上げるが、民主化運動に身を投じ、故郷・宜蘭県の県知事に当選。いち早く環境問題に取り組み、その功績は「宜蘭経験」として語り継がれている。全国に先駆け、政治的弾圧による被害者を追悼し、映画館での国歌斉唱を取りやめたのも氏だった。
 2000年の政権交代時にはその手腕を買われ法務大臣に就任するが、タブーなき汚職撤廃キャンペーンと弁当代にまで口を出す細かさに、身内からも強い批判の声が上がった。氏は常に孤独だった。
 病床でつづったブログの名は「おはよう、死に神」。強靭(きょうじん)な精神は健在だった。陳総統の汚職疑惑でかまびすしい今、マスコミは氏の清廉を神話に仕立て上げようとしている。が、おそらく氏はそんなことを望んではいないだろう。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)