特筆はオーケストラを伴う『風が吹いている』
初のバラード・ベスト。とはいえ、2年前に充実の2枚組ベストが出たばかりで正直早過ぎではと思ったが、実際に聞くと紅白のトリにもふさわしい大物だと実感できる有意義な1枚だと気付いた。
特筆すべきは、やはり9分以上に及ぶ『風が吹いている』のUKバージョンだろう。40名以上のオーケストラの演奏を伴って、まさに自由で大らかな風が巻き起こるように勇気づけられる。その後も『ありがとう』『SAKURA』『YELL』、そして『歩いていこう』の別バージョンと水野良樹詞曲による大作が続き、前半7曲で満腹寸前。
そこを『心の花を咲かせよう』や『明日へ向かう帰り道』など山下穂尊による若い世代らしい爽やかな楽曲が胸やけを防ぐようだ。無論、どの曲でも正確なピッチで歌詞がハッキリ聞き取れる吉岡聖恵の歌唱という大器があってのことだろう。本作の充実感から、次は“アップテン丼”も食べたいと思う人が多いはず。
(EPICレコードジャパン・2800円)=つのはず誠
(共同通信)
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つのはず・まこと 1968年生まれ。総合化学会社、音楽宣伝会社勤務を経て、T2U音楽研究所設立。音楽市場分析、コンピレーションCDの企画・選曲などを手がける。