糸満・サバニ「南洋ハギ」 舟大工2人、継承危機


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3年ぶりに南洋ハギを造った大城昇さん=1月17日、糸満市

 【糸満】「海人(うみんちゅ)のまち」といわれる糸満市。海人たちが使用していた小舟「サバニ」の伝統製法を知る「舟大工」が現在、市内に2人しか残っておらず、技術の継承が課題となっている。特に本来のサバニの製法を簡略化して造る「南洋ハギ」は、沖縄全体でも市内の2人にしか伝わっておらず“技術断絶”の危機に直面している。舟大工らの高齢化も進む中、関係者は後継者を育てるために、サバニの需要拡大を模索している。

和船工法で簡略
 サバニは、琉球王朝時代から交通手段や漁業で使用されている。一本の木をくり抜いた「マルキンニ(丸木舟、刳(くり)舟)」と複数の材木をつなぎ合わせた「ハギンニ(ハギ舟、本ハギ)」が代表的な形態だ。ハギ舟の一種、南洋ハギは、太平洋戦争直前のサイパンで考案された比較的新しい舟。戦火が迫り、物資不足が続いたため、本ハギの製法を簡略化して製造。本ハギでは使用されない「キール(竜骨)」を組み込むなど、和船に近い形で造られ、材木が薄く、工期も短い。
 サバニは本土復帰前後まで、県内全域で漁師が使用していたが、造船技術の発達や漁港の整備、漁業形態の変化の影響で、次第に姿を消した。

注文、10年に1度
 昨年末、2009年以来の南洋ハギが完成した。本部町の海洋文化館のリニューアルオープンに伴い、新たな展示品として、船大工の大城昇さん(61)=糸満市=が注文を受けた。大城さんは、舟が半永久的に展示されることを喜ぶ一方「舟の需要が少なくて、弟子がつくれない。このままでは技術が断絶する」と危機感を募らす。県内全域で活発に使用されるハーレー舟と違い、南洋ハギの注文は「10年に1度くらい」(大城さん)と需要が少ない。このため現存している南洋ハギは数隻しかない。
 近年、海人が使用していたサバニをマリンスポーツで利用する動きが出てきた。県内各地で開催されるレース大会には、多くの愛好者たちが集い、帆を掛け、風を切り、チームを組んでレースを楽しんでいる。
 もう一人の舟大工、大城清さん(62)=同=は「昔みたいに漁師の需要は見込めないので、今はマリンスポーツとして生かしていく方向だ」と説明。サバニ愛好家が県外にもいることを説明し「サバニは文化としてキャラクター性が高い。全国から訪れる観光客に楽しんでもらえるよう、サバニを普及させたほうがいい」と訴える。
 清さんには、4年前から弟子がおり、後継者育成は芽吹きつつある。この芽を絶やさないためにも今後、観光資源として活用するなど、需要の確保が求められている。(梅田正覚)