『舟を編む』 小気味よい会話劇で人間のおかしみを


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 原作は2012年の本屋大賞で1位を獲得した三浦しをんの同名小説。出版社の辞書編集部に配属された馬締光也が、約15年かけて新しい辞書「大渡海」を出版するまでの悲喜こもごも。

 名前の通り生真面目で不器用な馬締の辞書作りの過程を通して、言葉は自分の感情を相手に伝えるための道具であることを再認識させられた人も多いだろう。新聞や雑誌に関わってきた筆者にとっては、廃刊や休刊が相次ぎ苦境が叫ばれる昨今、紙媒体の地味な作業にスポットを当ててくれた三浦さんに感謝したい気持ちでいっぱい。そして映画は、そんな愛する原作の魅力を損なうことなく、いや、むしろ最上の娯楽作に仕上げてくれて、これまた感謝! 感謝!
 いや実は石井裕也監督と聞いて、不安に思っていたのだ。人間のダメな部分も丸ごと愛するような人物描写にたけた監督ではあるが、下ネタやら多少おふざけが過ぎるのがたまに傷。しかし今回はその欲望を封印。松田龍平をはじめとするキャストが持つ味と、小気味いい会話劇で人間のおかしみを醸し出すことに徹していた。もはや山田洋次作品の風格だ。
 原作から映画用の物語を抽出した渡辺謙作の脚本も秀逸。『プープーの物語』とか『フレフレ少女』といった監督作を見続けてきた者からすれば…やればできるじゃないかッ! 上から目線で恐縮ですが、褒めてます。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:石井裕也
脚本:渡辺謙作
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、黒木華
4月13日(土)から全国公開
(共同通信)
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 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

(C)2013「舟を編む」製作委員会
中山治美