英国の巨匠ケン・ローチ監督には同国の歴史も、現在抱える社会問題も映画を通して多くを学ばせてもらっているが、今回はまさかのスコッチウイスキー! 無軌道だった若者ロビーが、ウイスキー愛好家で社会奉仕活動の指導者ハリーとの出会いで、テイスティングの才能があることが発覚。その道を極め、恋人と息子と暮らすべく再生の道を歩み始めるハートウオーミングストーリーだ。
まぁ、その間に一悶着あるのだけど、酒好きにとってはスコッチウイスキーが人生のお役に立てるなんて嬉しいじゃないの。
劇中には、蒸溜所や愛好家が集う会合にオークションシーンまで登場して奥深き世界もたっぷり。原題のエンジェルズ・シェア(天使の分け前)も、樽貯蔵されたウイスキーなどが、熟成中に蒸発し、味わいが増していくさまを表現した専門用語から取ったもの。ウイスキーを美味しくするために天使が飲んじゃった! な~んて、甘美な表現じゃありませんか。でもこの言葉、本作にとっては、ロビーの人生を後押しするかのような激励の言葉に聞こえる。若いうちの苦労なんて、人生を豊かにするための熟成期間なんだって。
ホント、『エリックを探して』に続きローチ監督のコメディタッチの作品は良い! あー、この映画を見た後は、酒の味もまた格別となりそうだ。うひょひょ。★★★★★(中山治美)
【データ】
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショー、ロジャー・アラム
4月13日(土)から全国順次公開
(共同通信)
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なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。