講和条約で請求権放棄 8省庁、極秘に確認


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 沖縄の施政権返還をめぐる日米交渉が大詰めを迎えていた1971年4月、米軍基地から派生する対米請求権問題の解決策を討議した外務、大蔵、法務など8省庁と内閣法制局の会議の記録が27日までに明らかになった。対米交渉の難航で「矢尽き刀折れ」た状況にあるとして、沖縄側が求める請求権は、サンフランシスコ講和条約に基づき放棄することを確認した。

政治問題化しないように見舞金支給などの国内対策も協議している。沖縄は講和条約の発効によって日本から切り離されただけでなく、同条約を根拠に請求権も放棄させられていた。
 会議記録は「沖縄の請求権問題に関する関係省庁間打ち合わせ会メモ」(極秘)と題する外務省文書で、71年4月1日に作成されている。
 沖縄側の要請に基づき日本政府は米国に対する補償請求を、講和条約発効前と後の人身損害、軍用地の復元、漁業、つぶれ地、基地公害など10項目に分類して折衝した。関係省庁間会議が開かれた71年4月は折衝が大詰めを迎えていた時期で、日本は財政難を理由に請求を拒否する米側の姿勢を崩せなかった。
 会議録によると、条約の解釈として「平和条約(講和条約)第19条aに基づく請求権放棄には沖縄も含まれると考えてよいか」との法務省の質問に、大蔵省は「仕方がない」と回答。外務省は「外交保護権の放棄ということで行くほかない」という見解を示し、沖縄住民に損害をもたらした、米国の責任を追及する権利を放棄する意向を確認している。
 外務省は「全力を尽くして来たが、矢尽き刀折れた感がある」とし交渉打ち切りを示唆しつつ、国内問題にならないように見舞金支払いなどの国内対策を「至急検討」するよう求めた。大蔵側は軍用地の復元補償の肩代わりに言及した。
 基地返還時の原状回復義務を米軍が負わない地位協定第4条を適用して処理する案も浮上。防衛施設庁は強い調子で原状回復を約束させるよう迫っている。
 返還交渉の中で請求権問題は、日本に不利なまま展開した。関係省庁間会議から2カ月後の71年6月に調印された沖縄返還協定第4条に対米請求権の放棄が明記された。(宮城修)

<用語>対米請求権
 戦争や戦後の米国駐留などで生じた不利益や損害に対して補償を請求する権利。サンフランシスコ講和条約19条a項では、米国など連合国に対して日本が条約発効前の全ての請求権を放棄することを規定した。沖縄では戦後、米軍による土地の強制収用などへの補償を求める声が高まったが、日本政府は沖縄返還協定で対米請求権を放棄した。