「国粋主義」こそ危険 シーラ・スミス氏(米・研究員)


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「人気取りの国粋主義が一番危険だ」と指摘するシーラ・スミス氏=米ワシントンの外交問題評議会

 尖閣諸島の領有をめぐり沖縄周辺で日中間の緊張状態が続いている。米国との同盟関係を外交の基軸と強調する日本政府は、尖閣問題で米政府の支持を取り付けようと懸命だが、韓国とも竹島をめぐって関係悪化が続いている。米ワシントンの有力シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のシーラ・スミス上級研究員に米国から見た東アジア情勢について聞いた。

 ―領有権問題をめぐり周辺国との対立が続く。
 「昨年は大規模災害や経済問題などで北東アジアで戦略地政学上のバランスに変化が生じた。尖閣と竹島はそれぞれ経緯があり、中韓が協力して日本に圧力をかけたとは言えない」
 「韓国の李明博前大統領が昨年竹島に上陸した。国内に1965年の日韓基本条約や従軍慰安婦問題に対する不満があるが、国内政治も背景にある。竹島は60年代の李承晩ラインで韓国の実効支配が始まった。尖閣は昨年、石原慎太郎前東京都知事が購入を宣言してから緊張が高まった。石原氏の動機はよく分からないが、政治的意図があったとのではないか」
 ―米政府は尖閣について日米安保条約の範囲内との見解を示しているが、竹島には言及していない。
 「米政府は領有権について常に中立の立場だ。安保範囲に関する見解は、どちらの施政権下にあるかでおのずと対応は異なる」
 ―尖閣では中国海軍が海上自衛隊護衛艦に射撃管制レーダーを照射するなど、緊張が高まった。
 「自衛隊が冷静さを保ち、中国艦船の司令官は非常に幸運だった。中国政府は照射を否定したが『仮に照射があったのなら危険な行為だ』と認めており、深刻さを認識したはずだ」
 ―緊張状態は武器輸出にもつながる。米国に利するのではないか。
 「米国は中国に武器を売ることはない。日本にも簡単に売っているわけでない。日中対立が米国の利益につながることはない」
 ―自民党政権は愛国心を強調し、従軍慰安婦で河野談話見直しの動きもある。
 「河野談話は戦時中の性被害者に対する深遠な思いを示したもので、見直すことは日本以外では全く受け入れられない」
 「東アジアの安全保障環境に一番危険なのは人気取りのための国粋主義だ。日本の保守層に歴史認識を修正しようとする動きがあるが、沖縄戦がそうであるように全てが記録に残っているわけではない。日本に求められるのは過去の否定ではなく、戦争で犠牲を強いられる子どもや女性など弱者をいかに守るかという議論を国際社会に提供することだ」(聞き手・松堂秀樹)

英文へ→Senior fellow of CFR Think Tank points out the dangers of populist nationalism