ルポ・在沖海兵隊グアム移転 実現性 危ぶむ地元


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日本政府の提供資金で実施されている在沖海兵隊受け入れのための港湾補修工事=5月下旬、グアム・アプラ地区の海軍基地

 沖縄本島の約45%の面積の3割近くを米軍が所有する米領グアム。沖縄、ハワイと並ぶ太平洋での米国の軍事戦略拠点だ。日米両政府は2006年、グアムに在沖海兵隊8千人とその家族9千人を移すことを決定。

12年に沖縄から移る海兵隊員は4千人と計画を見直した。だが米議会による関連予算凍結や実弾射撃場の候補地をめぐる混迷、環境影響評価(アセスメント)の追加などで事業は進んでいない。移転決定から7年のグアム島を取材した。
 青海原に面してそびえ立つ4棟の高層ビル。低層住宅群の中でひときわ目立つ。韓国企業が投資する高級コンドミニアムだ。海外の富裕層や、海兵隊移転で将校クラスの利用を当て込んだが、資金難で4年ほど前から建設が止まった。移転事業で島外から来る労働者用住宅も建てられたが、今はひっそりしている。
 「当初移転を見越した開発計画が数々上がったが、2、3年前からは話題にもならない。街に浮き浮き感もない」。地元不動産業者はこう言い切る。地元からは進展が見えない移転事業の実現性に疑問符が付く。
 日本政府による米側への初の資金提供が実施された09年。観光の中心地タモンのホテルでは移転に向け投資家、建設業、不動産業を対象にしたフォーラムが盛大に開かれ、米本土、日本、中国、フィリピンなどの企業が参加。島は総事業1兆円と言われていた大型事業への期待感に沸いた。
 グアム建設業協会のジェームス・マーティネス会長は「米本土や日本などの建設会社が事務所を置いていたが、今は撤退している。ホテルや病院、ショッピングセンターの建設事業が動いているが、その先がない」と述べ、移転事業の進展に期待する。
 米太平洋軍司令官は米議会で移転完了時期を20年と証言した。だが日米両政府は、4月に合意した嘉手納より南の基地の返還・統合計画で、海兵隊の国外移転後に返還するとした牧港補給地区の海側部分の返還時期などを24年度以降と説明した一方、グアム移転の完了時期については明言を避けている。
 元グアム商工会議所会頭のフランク・カンピロ氏は、「事業は遅れに遅れている。海兵隊受け入れに必要な水道、下水道、道路などのインフラ整備も不十分だ」と指摘する。米政府の国防費削減や米議会による予算凍結もあり、インフラ整備への懸念を隠せない。
 カンピロ氏は「個人的には移転されると信じているが、無人偵察機導入など軍の技術は日々、進歩している。今後は多くの兵員が必要でなくなる可能性もある。移転完了時には、時代状況と合わなくなり、また見直されるかもしれない」と語った。
 (問山栄恵)